Picture Power

【写真特集】壁の「傷痕」に刻まれた 消えゆく都市の歴史〜台湾

URBAN SCARS

Photographs by Yi-Hsien Lee

2026年01月29日(木)12時39分
台湾

取り壊された建物の輪郭が幽霊のように隣接した建物の外壁に残る。こうした「傷痕」は、時間の経過と避けられない変化を示している

<限られた土地で解体と再構築のサイクルが絶えず繰り返される台湾。現代の都市景観に張り付いた過去の建築物の痕跡は、過ぎ去った時代の記憶や建築様式、アイデンティティなどの重層的な歴史を物語る。沈黙の証言者と台湾の建築写真家・李易暹(リー・イーシン)の音なき対話「Scar Tissue(瘢痕〔はんこん〕)」>

台湾の都市部を歩くと、古い建物の外壁に不思議な跡が付いているのを見かけることがある。かつて隣接して立っていた建物の輪郭や部屋の区画、壁に取り付けられていた物などがへばりつくように残されているのだ。建築写真家の李易暹(リー・イーシン)は、これらを「Scar Tissue(瘢痕〔はんこん〕)」と呼ぶ。

李によれば、都市を1つの巨大な生命体と捉えると、建物を壊す行為はその生命体に傷を負わせることに等しい。傷はやがて癒えて新しい構造物に生まれ変わることもあれば、過去の痕跡として深く刻まれることもある。

象徴的な1枚がある。建物の外壁に埋め込まれた、小石のようなタイルがあしらわれた浴槽の残骸だ(次ページ:1番目左)。同じような浴槽が李の祖父母の家にあり、これを見つけた時、当時の記憶が瞬時にあふれ出したという。このセンチメンタルな発見と、失われゆく歴史を保存する重要性を感じたことを機に、李は都市の「傷痕」を記録するようになった。

土地の限られた台湾では、解体と再構築のサイクルが絶えず繰り返される。特に台北では再開発が進み、古い家屋が次々に近代的なビルに建て替えられている。残された建物の壁に残る、かつての人々の暮らしを映し出す痕跡は、単なる解体の記録ではない。都市の歴史の断面であり、変化し続ける社会の中で静かにたたずむ記憶の証人だ。

次ページ:【写真特集】壁の「傷痕」に刻まれた 消えゆく都市の歴史〜台湾2

Photographs by Yi-Hsien Lee

撮影:李易暹(リー・イーシン)
建築とインテリアを専門とする台湾出身のフォトグラファー・アーティスト。ユニークな構図を用いて空間や構造を表現し、米「Architecture MasterPrize 2022」年間最優秀写真家賞、富士フイルム「GFX Challenge Grant Program 2024」優秀賞などを受賞

【連載第1014回】Newsweek日本版 写真で世界を伝える「Picture Power」2026年1月20日号掲載

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀行、25年純利益は07年以来の高水準 自社

ビジネス

SMBC日興、10─12月期純利益は66%増の34

ワールド

欧州独自軍創設「想像できず」、EU外相も否定的見解

ビジネス

中国、不動産業界締め付け策撤廃と報道 関連銘柄急伸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    またTACOった...トランプのグリーンランド武力併合案…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story