コラム

金正恩の狂人っぷりはどこまで本物か?

2017年09月23日(土)11時00分

金正恩は世界一の「狂人」なのか、それとも「狂人」を演じてるのか Issei Kato-REUTERS

<挑発が一線を越えないようにしているのは正常者の証しだ。国際社会の圧力にもかかわらず、北朝鮮が核・ミサイル開発をやめない理由は――>

Madman Theory(狂人理論)。自分の正気を疑わせて、相手から有利な条件を引き出すというこの外交上の交渉術を、近年よく耳にする。まともな人間が狂人を演じるのは楽な作業じゃないはずだが、ある国のトップは現在うまくやっていると思う。しかも一番巧みにやっているのは恐らく、みんなが思い浮かべるであろう「あの人」ではない。

「I call it the Madman Theory, Bob」。こう切り出して狂人理論の作戦について説明を始めたのは、ベトナム戦争を終わらせることができなくて苦悩していたリチャード・ニクソン米大統領。彼は、ハリー・ハルデマン首席補佐官にこう伝えた。

「私は戦争をやめるためには手段を問わないと、北ベトナムに思わせよう。彼らにこう漏らすんだ。『頼むよ。ニクソンは反共産主義に狂っている。彼が怒ると誰にも止められないし、核のボタンを持っているぞ......』。そうすれば2日以内に、ホー・チ・ミン(北ベトナムの指導者)が自らパリに停戦を乞いにくるだろう」

ニクソンは冷戦中のソ連に対しても、怒り狂った様子で大使を罵倒したり、核爆弾搭載の爆撃機をソ連の国境付近で旋回させたりと、まさに発狂したかのような言動をみせた。ソ連側はその狂人っぷりにビビり、核軍縮条約の交渉テーブルに着いたと評価する歴史家もいる。

それから40年余り。ドナルド・トランプ大統領は選挙期間中から、日韓の核保有化を示唆したり、アメリカのNATO脱退をほのめかしたりと国際社会の基礎構造をひっくり返すような、常人には理解しがたい発言を展開した。就任後もメキシコ、ドイツ、オーストラリアなどの同盟国を怒らせながら、トルコのエルドアン大統領、エジプトのシシ大統領、ロシアのプーチン大統領を擁護し、北朝鮮の金正恩・国務委員長に「会えたら光栄です」と狂言めいたことを言っている。

そのあと手のひらを返し、金正恩が「これ以上アメリカを威嚇したら炎と怒りに見舞われる」と、原爆投下後のトルーマン大統領の演説を彷彿させる表現で牽制。少し、情調不安定かな?

最近はベネズエラについて、「軍事的選択も含めてありとあらゆる手段を考慮している」と、軍事介入を突然匂わせた。ん? ベネズエラ? そう。ベネズエラ! 完全たる非常識っぷりを幾度も披露しているこの姿、狂人理論上の布石だとしたら上出来だ。

しかし、トランプの狂人の演技(?)は抜群だとは言え、上には上がある。それが北朝鮮だ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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