最新記事
シリーズ日本再発見

ウィズコロナの教育は「オンラインでやればいい」では解決しない

2020年07月10日(金)16時30分
島田昌和(学校法人文京学園理事長・文京学院大学教授)

Ridofranz-iStock.

<コロナが終息するまで、日本の教育機関は海外との交流を止めるしかないのか。ハーバード大学、ミネルバ大学など国内外の大学で「グローバル教育のあり方」についての模索が続くが、事はそう単純ではない>

"ウィズコロナ"という言葉が定着しつつある。そう簡単にウイルスは根絶しないので、不特定多数の人との接触を適宜コントロールしながら、なるべく平常な日常生活、経済活動を営もうという政府の言う「新しい生活様式」である。

リモートワークやリモート学習を組み入れて、通勤通学での混雑を緩和すること。デリバリーやテイクアウトを続け、混み合う飲食店での食事の回数を減らす食生活などもそうであろう。

一通りの経験を積んで、集団生活や社会生活の基本が身についている"大人"は、多少時間がかかってもポストコロナ時代にはそれらを懐かしみつつ取り戻すことだろう。しかし、それらの基本を学んでいる最中の児童・生徒・学生は長引くステイホームで、密集の大集団体験が極端に減り、チームワークや組織の中での役割を実体験する機会が減って、後々、次のステージに進む際に弊害が出てこないものだろうか。

同じメンバーと常に顔をつき合わせて、仕事に必要な能力以外の個性や癖とも付き合いながら仕事をすることができるようになるだろうか。事によっては、ずーっとリモートで勉強もしてきましたし、会社に入っても人に邪魔されず、自分のペースで仕事できる在宅勤務を与えてくださいと言うかもしれない。

人には生理的に受け付けない個性もあって、それを許容するトレーニングを経て、付き合い方・折り合い方を身につけるのに、それを実体験する機会が極端に少なく、人同士のコミュニケーションに弱い人が多数出てきてしまうかもしれない。

部活動も制限され、特にチームスポーツはハイレベルの成果を目指して強いプレッシャーのもとでしのぎを削ることを、少なくともこの1年逃してしまう。教育現場はこれらを取り戻すために相当のエネルギーを掛けないと取り戻せそうにない。

であるが、ウィズコロナ時代の「新しい生活様式」化でそれなりの社会生活を教育に取り戻すことはできそうである。

若いうちに海外に行くべき理由

ウィズコロナの中、教育現場で一番戻りにくいこと。それはたぶん、しばらく海外に行けないことだろう。

海外の新たな留学生がやってくることも少ないだろう。どちらかというと相対的にコロナ対策の成果が出ている日本に海外からやってくることは徐々に復活していくかもしれないが、日本からの海外留学、海外修学旅行、短長期の語学研修等は当分行われなくなることを覚悟しなければならない。

安全面だけでなく経済的にも家計を直撃している状況下で、子供にそのようなプラスの教育費を裂くことも難しくなるかもしれない。リモートやネットで代替できるのだろうか。

私たちはなぜ若いうちに海外に行くべきと考えてきたのか。

言語が違う、宗教が違う、自然環境が違う、生活環境が違う、人種が違う、価値観が違う、そういう多様性の中に一人身を置いて生活をする。学校で習うというよりも生活そのものを体験する中で、皮膚感覚で異質な生活・社会を実体験して自分の中に吸収すること、それはその後の人生のかけがえのない財産となることを知っているからである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、いずれロシアとの交渉必要 「立場は日々

ビジネス

米経済「まちまち」、インフレ高すぎ 雇用に圧力=ミ

ワールド

EU通商担当、デミニミスの前倒し撤廃を提案 中国格

ビジネス

米NEC委員長、住宅価格対策を検討 政府閉鎖でGD
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中