最新記事
シリーズ日本再発見

「バレエ男子」をありのままに受容する、日本に世界は学ぶべき

Boys Dance Too and Are Celebrated in Japan

2019年09月24日(火)16時15分
門傳昌章(もんでんまさふみ、西オーストラリア大学日本学講師)

ニューヨークではスペンサーの発言に抗議する集会が THE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO

<日本のメディアは、男性バレエダンサーを1つの手本として位置付け、ダンスをする少年を応援する風潮が根付いている>

男の子がバレエ好きなんておかしい――8月下旬、米ABCの情報番組『グッドモーニング・アメリカ』司会者ララ・スペンサーが、バレエのレッスンを受けるイギリスのジョージ王子を嘲るような発言をした。

欧米のダンス界はすぐに一致団結して立ち上がった。#boysdancetoo(男の子だって踊る)というハッシュタグが生まれ、ミュージカル映画のスターだった故ジーン・ケリーの妻パトリシア・ウォード、ダンサーで振付師のトラビス・ウォールら著名人をはじめ、世界各地でダンスを学ぶ若者やその親が抗議の声を上げたのだ。

彼らは、自分が受けたいじめや困難の中でも情熱を貫いた体験を語った。批判を受けて、スペンサーは番組で謝罪。番組放送中、ニューヨークのタイムズスクエアのスタジオの外の路上では約300人が参加するバレエレッスンが開催された。

「バレエ男子」への先入観や偏見は今に始まったものではない。オーストラリア人作家クレメンタイン・フォードは昨年、友人の息子がバレエの発表会でチュチュを着たがったのに許されなかったと地元紙に書いた。

議論に再び火が付いた今、目を向けるべきは日本かもしれない。この国では、男性バレエダンサーがその美しさや鍛錬によって広く称賛されている。

dance190921-barret02.jpg

ローザンヌでの二山の演技 ALEXANDER ROTH-GRISARD/GETTY IMAGES

筆者が住むオーストラリアでは、バレエなどを踊る少年や男性は、ダンスも「マッチョ」になり得るという理由で正当化されることが多い。スポーツと同じで力強さを表現できる、と。

昨年、オーストラリア・バレエ団が上演した『スパルタクス』はまさにこの路線だった。うたい文句は「トウシューズとチュチュだけがバレエ? 考え直せ」。男性層を取り込むには、アクションのすごさを強調するしかないと言わんばかりだ。

バレエ男子を増やそうという意図は立派でも、これではマッチョなイメージに共感できない多くの若者が結果的に排除される。固定観念的な「男らしさ」を強調するせいで、男女を問わずバレエに憧れる理由となるコスチュームや舞台装置、美しさ、芸術性などの要素が脇に追いやられることにもなる。

「男性的なもの」でなく

こうした姿勢はスペンサーの嘲笑的な発言の裏返しにすぎないだろう。固定観念を強化すれば、ダンサーを目指す少年たちの選択肢を狭めることになる。

そこで参考になるのが、日本文化における男性バレエダンサーの受容の在り方だ。それは、男らしさという狭い見方に基づくものではない。日本のメディアは男性バレエダンサー(と、その「親戚」であるフィギュアスケート男子選手)を1つの手本として位置付ける。テレビや数々のコンクール、専門誌のおかげで、ダンスをする少年を応援する風潮が根付いている。

dance190921-barret03.jpg

『くるみ割り人形』を踊る熊川 ROBBIE JACKーCORBIS/GETTY IMAGES

英ロイヤル・バレエ団の元プリンシパル、熊川哲也は「日本で最も偉大なバレエダンサー」であるだけでなく、「世界史上最高のダンサーの1人」とされる。ロイヤル・バレエが2013年に来日公演を行った際には、プリンシパルのスティーブン・マクレイが監修するマンガがバレエ男子向け雑誌に掲載された。

国際舞台で活躍する日本人ダンサーは性別を問わず称賛される。14年に当時17歳の二山治雄がローザンヌ国際バレエコンクールで1位になった際には日本国内で大きく報じられた。

もちろん日本でも、バレエなど女の子のものとされてきた活動をする男の子への偏見はある。だが現在この国の主流メディアは、そうした男子をポジティブに見せようとし、それに成功している。

バレエを男性的なものとして提示すれば、男子人口を増やす上では効果的だ。だがバレエが体現する美の概念や手本としての役割や、ダンス好きの男の子が仲間を見いだす場を持つことの重要性も無視してはならない。

日本で男性ダンサーへの注目が高まったのは、国際的名声を得る若者が続々登場したこともあるだろう。おかげで、より幅広い層の男性の間でバレエの認知度や影響力が高まっている。

#boysdancetooの動きは、単にバレエ男子のスポーツ的でマッチョな側面に注目するのではなく、彼らをより豊かな意味合いで肯定的に捉える日本的アプローチを反映している。主流メディアがこうした取り上げ方をすれば、今も少数派として孤立するバレエ男子は帰属感や支え合いの精神を手にできる。仲間とつながり合い、関心や夢やバレエへの愛を共有できるようになるはずだ。

The Conversation

Masafumi Monden, Lecturer in Japanese Studies, University of Western Australia

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、2.3万件減の20.6万件 予

ビジネス

米12月貿易赤字703億ドルに拡大、25年モノの赤

ビジネス

FRB調査巡るハセット氏の批判、独立性に対する新た

ワールド

EXCLUSIVE-欧州の情報機関トップ、年内のウ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 3
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由...「落葉帰根」派も「落地生根」派も
  • 4
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 7
    カンボジア詐欺工場に「人身売買」されたアフリカ人…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    アイスホッケーの試合中に「銃撃事件」が発生...「混…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 7
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中