最新記事
シリーズ日本再発見

戦前から続く「同期」の論理が、今も日本社会に巣くっている

2018年10月30日(火)16時30分
松野 弘(千葉大学客員教授、現代社会総合研究所所長)

gyro-iStock.

<日本型のエリート選抜システムとして、戦前から機能してきた「同期」という考え方。新卒一括採用を見直す機運もあるが、若手サラリーマンたち自身の中にもまだ「同期意識」が存在している>

「貴様と俺とは同期の桜、同じ兵学校の庭に咲く、咲いた花なら散るのは覚悟、みごと散りましょ国のため......」――これはどこかの会社の社歌ではない。日本が太平洋戦争を始めた昭和10年代後半、海軍の予科練(茨城・霞ケ浦)で飛行訓練をした若者たちの愛唱歌である。

この「同期の桜」は、同じ時期に予科練に入隊し、厳しい訓練を受け、同じ釜の飯を食って、国家、すなわち天皇陛下のために、戦争で散っていった若者の姿を歌ったものである。こうした「同期意識」は日本特有の共同体的な集団意識の形成という点で、当時の学生には大きな意味を持っていた(この若者たちは、終戦直前「神風特攻隊」として出陣し、そのほとんどは死んでいった)。

日本の企業は階層別組織であるといわれてきた。戦前の企業組織では、ホワイトカラー層(事務的労働者)とブルーカラー層(肉体労働者)に峻別され、待遇(賃金と地位)も格差があった。

ホワイトカラー層では、入社年次、つまり同期入社によって一つの集団が形成され、その集団の中からトップマネジメント層(上位管理職層)が選抜されるというシステムが長年続いていた。企業にとっては、「一括入社」という儀式はその意味で重要である。

一方こうした考え方は、企業よりも霞が関の官僚組織のほうが強い。国家公務員試験の上級職試験に合格し、各省庁に入職した職員は、競争原理のもとに選抜され、40代後半には官僚組織の幹部クラスが絞り込まれ、最終的には、そのトップである事務次官が決定される仕組みである。この競争に敗れた者は役所から去っていく。

ルーツは戦前の旧制高校、「戦友」組織ではないか

こうした「同期」という考え方はどこから出てきたのだろうか。大企業の功成り名遂げた人たちが登場する日本経済新聞のコラム「私の履歴書」をみると、大抵の人が同期入社について強い意識を持ち、同期の仲間に強い絆を持っているようである。

例えば戦前、エリート養成の予備機関であった旧制高等学校(現在の大学の教養学部にあたる)の入学者は全員、高校の寮に入ることが原則として義務づけられていて、苦楽を共にしたという強烈な仲間意識があった。

※旧制高校は、全国の県立中学校(中学への進学者はきわめて少数であった)から選抜された生徒が進学。その後、彼らは帝国大学へと進学していった。

こうした人たちが企業に入り、旧制高校意識を基盤として形成したのが、サラリーマン社会の「同期意識」ではないかと思われる。これと似たような組織が、戦前の軍隊組織(陸軍・海軍)で戦争を戦い抜いてきた「戦友」組織であった。

このような同期意識は、将来の幹部候補を選抜する際に有効に機能していく。何年入社から役員を何名選ぶという考え方がある。すでに指摘したように、官僚組織の場合はとりわけ、こうした意識が強く、同期入省者から事務次官をという風潮がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中