最新記事
シリーズ日本再発見

外国人研究者が見た、日本の「地方消滅」と若者を呼び戻す施策

When a country’s towns and villages face extinction

2018年01月31日(水)18時50分
ブレンダン・F・D・バレット(豪RMIT大学上級講師)

写真はイメージです visualspace-iStock.

<ほとんどの外国人旅行者が目にする日本はクールで活気に満ちた国だが、日本は高齢化・人口減少の「課題先進国」でもある。地方の2県を訪れたオーストラリアの研究者は、地方自治体の対策をどう捉えたか>

日本では2040年までに、896の自治体が存続不能になると予測されている(インタラクティブな地図はこちら)。元総務相である増田寛也・東京大学客員教授らはこの状況を「地方消滅」と表現している。

こうした日本の地方を訪ねてみると、アルフォンソ・キュアロン監督の映画『トゥモロー・ワールド』を思い起こさせる。物語の舞台は2027年。人類が生殖能力を失って約20年後という設定だ。学校は荒廃し、遊び場は静まり返っている。家は空っぽで、荒れ果てている。

日本の状況はこれほど厳しくはないが(今のところ)、出生率が70年代から下がり続けていることを増田は指摘。1世帯当たりの子供の数は現在、平均1.4人だという。最新の予測では、2015年から2053年の間に、日本の人口は2700万人減少すると見込まれている。オーストラリアの人口が丸ごと消えるようなものだ。

消滅の可能性が最も高いのは、若年女性人口(20~39歳)が50%以上減少する自治体だと増田は結論付けている。

同時に、日本は急激に高齢化している。65歳以上の人口は2015年の時点で26.6%だったが、2065年には38.4%まで増加する見込みだ。さらに、若者が都市に移動しているため、高齢化は特に村落で深刻化している。

外国人が目の当たりにした日本の衰退

一方で日本は、世界からクールで活気に満ちた特別な国と見られており、年間2400万人超の旅行者を引きつけている。多くの旅行者は、まずは東京や大阪、京都を訪れ、そこから他の主要都市まで足を延ばす。こうした主要都市は、人口、経済、文化活動の中心地であり、ほとんどの旅行者が目にする日本はこちらだ。

主要都市ではなく村落に足を運んで初めて、「地方消滅」を目の当たりにすることになる。筆者は2017年、地方にある2つの県を訪れた。

島根県津和野町の近郊にある耕作放棄地(筆者提供)

最初に訪問したのは7月。島根県の小さな町、津和野だ。現在の人口は約7500人だが、増田の予測によれば、2040年には若年女性人口が75%減少し、人口が半分以下の3451人になるという。さらに10月には、徳島県を訪れた。徳島では、ほとんどの自治体が同じような状況にあった。

どちらの県でも、耕作放棄地や空き家を数多く目にした。全国的にも、2040年には所有者不明の土地が720万ヘクタールに達すると試算されている。6兆円近い価値を持つこれらの土地の総面積は北海道と同等で、タスマニアより大きい。

日本の相続に関する法律も、全国に820万もの空き家を生み出している一因だ。土地に建物がない場合、固定資産税が6倍になるため、古い建物を解体しないほうが理にかなっているのだ。

japan180131-3.jpg

徳島県で見た空き家(筆者提供)

自治体は人を呼び戻そうとしているが

急激な高齢化と人口減少については日本のメディアで広く取り上げられており、日本国民も社会問題として認識している。

japan180131-4.jpg

「地方消滅」を取り上げる日本のテレビ番組(筆者提供)

実際、自治体は仕事の機会を提供したり、空き家の情報を共有したりすることで、都市に暮らす人々を呼び戻そうと努力している。

こうした国内での移動は「Uターン」や「Iターン」と呼ばれる。Uターンは地元に戻ること。Iターンは都市生活をやめ、田舎に移り住むことだ。

ただし、小さな村落への移住は困難を伴うこともある。村落は共同体意識が強く、新参者は地域のしきたりに従うよう求められる。

日本には「郷に入れば郷に従え」という言葉がある。従わなければ「村八分」の対象となり、無視や排除といった制裁を受けることもある。

japan180131-5.jpg

Uターンと村八分を取り上げる日本のテレビ番組(筆者提供)

もっと抜本的な対策が必要だ

こうした問題に単純な解決法は存在しない。日本政府は取り組みを始めてはいるものの、過去の政策では、インフラ整備や公共施設の建設を重視する傾向があり、住民の経済的なニーズや福祉は軽視されてきた。

増田は3つの中核目標を持つ抜本的なアプローチを提案している。

1. 村落の人口を維持するには(結婚、妊娠、出産、育児に関する)包括的な対策が必要だ。

2. 人口の再分配を促進し、大都市への移動を減らすための対策を取るべきだ。

3. 人的資源と地方のスキルを強化するための政策も導入されるべき。外国から高度人材を受け入れることを含むが、これについては賛否両論だ。

現在の取り組みの多くは、若者を地方に呼び戻すことを目標としている。しかし、長期的な仕事が限られているため、生計を立てることが難しいというのが最大の課題だ。地域・社会の課題解決に取り組む筧裕介は、2015年に出版した著書『人口減少×デザイン――地域と日本の大問題を、データとデザイン思考で考える。』で、女性と創造性、コミュニティーを中心とする新しい地域経済活動を提案している。

ベーシックインカムの概念に対する関心も日本で高まっている。一部の評論家は、ベーシックインカムは日本に再び活気をもたらし、経済的安定を手に入れた若者が田舎暮らしに魅力を感じるようになると主張している。

地域経済にとって大きな課題の1つが資金調達だ。特に、新しい事業を支援してもらうのが難しい。クラウドファンディングによる取り組みはいくつかあるが、「トランジション・タウン」運動も自治体の参考になるはずだ。この運動では「経済を取り戻し、起業家精神を刺激し、仕事を再考する」ことを重視している。

具体的には、地方で起業家フォーラムの可能性を探ってみる価値はあるだろう。地元の投資家と起業家が一堂に会し、小規模な新事業の資金を募る場だ。

自治体が資金を集めて共同出資すれば、ビジネスのアイデアはあるが十分な資金がない若者を支援できる。物理的な建物やインフラよりも住民のニーズを重視すべきだという、増田や筧の提言とも一致している。

自治体は今も問題解決の方法を探っているところだが、日本が高齢化と人口減少、その対策において世界の先頭を走っていることは間違いない。多くの国がいずれ、同じ道を歩むことになる。日本の今後を注視することで、私たちは多くを学ぶことができるだろう。

(翻訳:ガリレオ)

The Conversation

Brendan F.D. Barrett, Senior Lecturer, Program Manager, Masters of International Urban and Environmental Management, RMIT University

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、EU産ブランデーに最大34.9%の関税 5日

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

オランダ国防相「ロシアが化学兵器の使用強化」、追加

ビジネス

GPIF、24年度運用収益1.7兆円 5年連続増も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中