最新記事
シリーズ日本再発見

食文化史研究家が語る、未だ知られざる和食の利点

2017年10月23日(月)12時06分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

永山流食生活は「日本庶民史の再現」だった

――そうした理想的な食生活を実践・提唱するにあたっては、自らの経験だけでなく、食文化史の研究も影響しているのか。

私の場合の食文化研究というのは、縄文人から現代人までの、庶民目線の食生活の歴史を研究することです。すなわち、庶民の食の知恵の集大成を調べ、まとめ、記録として残すことでした。新聞の連載記事として、日本中の農村・漁村・山村を歩き回って聞き取り、実際に食し、体験しました。

さらには、日本の長寿村と呼ばれる場所を訪ね、長寿者が何を食べているのか、どんな食事をしていたお陰で長生きできたのか......を調べました。この取材は大いに役に立ち、私の食生活の考え方にも影響を与え、助かりました。

私のビンボー暮らしの中の"食物篇"は、まさに日本庶民史の再現だったような気がします。それだけに、今の人たちにもこれらの知恵を伝えていくのが私の役目。「日本人が食べてきた食事」を語り続ける、食の語り部になろうと考えています。

――著書では、その"ビンボー暮らし"について赤裸々に語っているが。

次々とやって来る人生の挫折。その結果として、実に長い長いビンボー生活でした。お金がなく、50代半ばまでシンプルな食事しかできませんでした。しかし、おかげで糖尿病にもならず、いい結果になったようです。

昔は八百屋でも魚屋でも、クズやアラを超安価に入手できましたが、それを工夫して食べていたことが食文化史研究のベースになりました。プラス、生涯現役力の強化につながったような気がしています。

頭を使って工夫しました。常に陽気に笑ってきました。ビンボー時代の習慣で今でも身についているのが、「パンポン・パンポン」の掛け声で、これでどれほど気持ちが明るくなったことか。親子3人で、互いの開いた両手に自分の手を合わせ、同時に、歌うように「パンポン・パンポン」と唱える。

今思えば、つらい現実をのり切るための呪文だったような気がします。特に子どもがそれを好きで、「お父さん、パンポン!」とよくねだりました。家だけでなく、小学校でもクラスの友達とやったので、子どもはパンポンと呼ばれていたそうです。赤塚不二夫の漫画に「バカボンのパパ」という親父のキャラクターがありますが、私は「パンポン親父」でした。

――最後に今後の抱負を。著書には「残っている住宅ローンを早く返済して、もう一度マンガ家に挑戦したいのです。90歳で再デビューを目論んでいます」とあるが。

人生は夢と道づれ。

どうやって実現するか。失敗するかもしれない。しかし、挑戦するのが夢。その連続が人生のような気がします。私の場合、「長寿食グルメ」を追い続ける男を主人公にした漫画を描くこと。美味きわまりない長寿食がテーマなのです。

脳が歓喜にふるえ、長寿遺伝子をオンにしてしまうような、そんな美味なる長寿食を見つけること。あるいは、創作してしまうこと。「長寿食グルメ」を追求しながら、私自身も長生きし、新しい長寿者タイプを作り出していきたいと考えています。漫画の主人公の名は「ひげ先生」で、本のタイトルは「ひげ先生の長寿食」であります。

【参考記事】1日おきに魚と肉......栄養のかたよりを防ぐ永山流食事法


『ひと月1万円!体にやさしい
 昭和のシンプル食生活』
 永山久夫 著
 CCCメディアハウス

※当記事は2016年12月29日にアップした記事の再掲載です。

japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマス、新たに人質2遺体を返還 ガザで空爆続く中

ワールド

トランプ氏、26年度の難民受け入れ上限7500人に

ワールド

米NY州が非常事態宣言、6500万ドルのフードバン

ワールド

ロシア、ウクライナのエネルギー施設に集中攻撃 全国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中