最新記事
シリーズ日本再発見

クラフトビールの「第3次」ブームが、これまでとは違う点

2017年02月28日(火)16時12分
安藤智彦

subman-iStock.

<クラフトビールが注目を集めているが、実は、ここ数年でいきなり現れた商品カテゴリーではない。第1次、第2次ブームと違って、一過性の流行で終わらないと見込まれるのはなぜか>

【シリーズ】ニッポンの新しいモノづくり

「とりあえず一杯めはビールで」

そんな光景が当たり前だったのは過去の話。いまや最初の乾杯にビールだけが並ぶのは少数で、ワインやハイボール、ロングカクテルなどさまざまな飲み物が混在する状況にある。そもそもビールを飲まない人も少なくない。日本でワインやウイスキーが堅調に売上を伸ばすなか、いわゆる洋酒カテゴリーで一人負けを喫するかたちになっている。 

もっとも、ビールすべてが劣勢なわけではない。消費が落ち込んでいるのは、アサヒビールやキリンビールなど大手メーカーが長年造り続けてきたビール。その大半はラガータイプのビールで、爽快なのど越しや心地いい苦味などを特徴とする。

日本の飲食店で生ビールを注文すれば、基本的には黄金色のラガービールが出てくるはずだ。もともとの消費量が多かったこともあり、この手のビールの低迷が目立つ格好になっている。

その一方で、ビール市場を超えた存在感を示し始めているのが「クラフトビール」だ。大手ビールメーカー製の商品と比べ生産量は多くはないが、個性の際立ったラインナップが揃う。

規模の小ささを活かした、実験的な味わいのビールも楽しみの1つ。アルコール度数も数%から20%を超えるものまでさまざま。合わせる料理やその日の気分に応じて、豊富な選択肢が用意されているのもクラフトビール・ファンを増やす一因となっている。

【参考記事】開発に10年かけた、シャンパン級のスパークリング日本酒

クラフトビール自体は、ここ数年でいきなり現れた商品カテゴリーではない。日本での誕生のきっかけは、ビールの醸造免許の下限となる製造量が、2000キロリットルから60キロリットルに緩和された94年に遡る。

規制緩和に端を発した90年代半ばから後半にかけての第1次ブーム、2000年代後半の第2次ブーム、そしてここ数年の第3次ブームと、大きく3回のうねりを経ているのが日本のクラフトビールなのだ。

醸造所乱立の第1次ブームは「お土産ビール」だった

第1次ブームでは、わずか5年ほどの間に300以上の醸造所が乱立。当時はクラフトビールではなく「地ビール」という単語が全国各地で見られるようになった。

だが、地域おこしや特産品づくりの一環としての側面が強くなりすぎ、ビールそのもののクオリティはいまひとつ。地域の特色を出すはずが、ほかと似たり寄ったり。そんな地ビールも珍しくなかった。とりあえず醸造設備を導入したが、肝心のビールに商品力がない――箱モノとしての地ビール参入に終わるケースだ。

結果として地ビールは文化としてあまり根付かず、お土産ビールのような扱いで鳴かず飛ばずの時期を迎えることになる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中