コラム

ツイッター中毒のすすめ

2011年01月19日(水)20時38分

 年末年始にツイッター廃人になりかけた。「友達」からの返信や気になる友達同士の会話が気になって、ツイッター以外は何も手につかなくなるツイッター廃人、あるいはフォロワーを何万人、何十万人と増やすこと自体が目的と化すツイッター星人。どちらにしても、リアルの友人や仕事を失いかねない危険と隣り合わせだ。それでもツイッターを知らずにいるくらいなら、いっぺん中毒になってみてよかった、と思った(注:リアルの世界にあまりしがらみのない若い人はより危険なのかも?)。

 ツイッターに偽名のアカウントを作ったのはずい分前。もっぱらRSSリーダーより速報性も利便性も高いニュースリーダーとして使っていた。

 それが年末の休暇が近づいてきたとき、ふと趣味のほうで活用してみようと思い立った。今熱中している習い事がとてもマイナーで、近くには仲間もいないし、友人知人を誘っても断られるし、第一、教室や発表会などの情報もほとんどない。メジャーな媒体に載っていないのはもちろんのこと、ネット検索しても欲しい情報はほとんどなし。

 だがツイッターでその分野の人を検索しフォローし始めたら、フォロー返しという形で少しずつフォロワーが増え出し、自分でも習い事への熱意を発信しまくったらさらにフォロワーが増え、あとは芋づる式。あっという間にある種のコミュニティの仲間入りを果たしていた。リアルの世界ではマイナーで誰も見向きもしない趣味だと思っていたのに、わずかな期間に予想を超える人数が集まった。こんなにいたのか、とびっくりした。

 しかもフェースブックのようにプライバシー侵害の危険を冒してまで実名の友達を巻き込む必要はないのが私は気に入っている。自分一人で、しかも偽名と偽名のウェブメールだけで、自分が求める情報を持つ人たちと「出会う」ことができる。習い事がマイナーだったのが逆に良かったのだろう。「起業」や「WEBマーケティング」がキーワードでは、ツイッター上では「人間です」と言っているのも同然だ。だがニッチさえつけば、情報に飢えた仲間たちがピラニアのような勢いで集まってくる。そしてその集まりが、互いに趣味または仕事を前進させる推進力になる。

 だが興味が合うだけに、意気投合し過ぎてしまうと互いにボケたり突っ込んだりしているだけであっという間に数時間経ってしまう。そして「今起きた」「電車混んでるなう」「帰宅った」などのつぶやき(リアルタイムで140字なのでたいがいこんなものなのだが、下手な格言などよりこの繰り返しが意外にパワフルだ)を毎日交し合ううちに、いつの間にか本当の友達になったような気になってしまう。擬似恋愛だって起こる。

 中毒の症状としては、リアルの友人を大切にしなくなる、仕事もどうでもよくなる、実態の伴わない万能感、幸福感を覚えてやたらと強気になる、など。朝から晩までツイッターをやっていることは言うまでもない。あのまま行ったら本当に危ないところだった!

 正気に戻ったきっかけは、年明け早々風邪で寝込んだこと。ツイッターのお友達はそれはそれは忙しいので、口々に「お大事に~」と一回言ってくれた後は、コミュニティごともの凄い速さで次のイベントの話題、今晩のおかずやテレビ番組の話題へとどーっと移動していってしまう。置き去りにされたおかげで目が覚めた。実際に仕事を代わってくれたのはリアルの同僚だし、万一倒れたときに見舞ってくれるのもリアルの友達。

 それでもツイッターには、いろいろな夢を実現する上で、あるとないとでは大違いの威力が間違いなくある。やっぱり使い方次第だ。先輩たちはうまく使いこなしていた。誰かが「おやすみ」と言ったら、どんなに面白い冗談を思いついてもちょっか出さないのが暗黙のルール。「おはよう」は、さあ今日も元気出していこう、の合図。お互いの暮らしを尊重しながら、生きる力を引き出していた。それこそがリテラシーだろう。これは、失敗を恐れずはまってみて体得するしかないのではないか。

 ちなみに私は意志が弱過ぎて、「おやすみ」の後もツイッターから離れられない夜が相次ぎ、やむなく休止宣言してリハビリ中。通勤電車の中で携帯端末を取り出したときなど、「ああみんなのツイートを読みたい」という禁断症状に今でも悩まされる始末。年甲斐もないが、いい失敗だった。

――編集部・千葉香代子

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story