コラム

古今東西ハニートラップの歴史

2010年12月22日(水)10時00分

 内部告発サイト、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジがレイプ容疑で逮捕された事件では、アサンジやウィキリークスの活動を支持する人たちが「外国勢力の陰謀」を主張している。その真偽は定かではないが、スパイが情報のためにターゲットを誘惑するハニートラップは、スパイ映画の中だけの話ではない。冷静時代、旧ソ連のKGB(国家保安委員会)はハニートラップを常套手段としていたと言われている。

 古くは、「女スパイ」の代名詞となった第1次世界大戦前後のヨーロッパの高級娼婦マタ・ハリ。パリで「2重スパイ」として活躍し、多くのフランス軍やドイツ軍の将校とベッドを共にして情報を手に入れた。最後にはドイツに情報を流したとしてフランス政府に処刑された。

 1978年、ニカラグアの左翼革命組織のメンバー、ノラ・アストルガは、国家警備隊の将軍を自宅アパートのベッドに誘い、将軍は暗殺グループに喉を切られて殺害された。86年にイスラエルの核兵器開発をイギリスの新聞に暴露した核技術者モルデハイ・バヌヌは、イスラエルの情報機関モサドの女性スパイにおびき出されてローマに行き、そこでモサドに拘束されている。KGBのハニートラップとして有名なのは、87年にスパイ行為で米海兵隊員として初めて有罪判決を受けたクレイトン・ローントゥリーの事件。アメリカ大使館の衛兵として勤務していたが、色仕掛けの誘いに乗ってKGBに書類を流した。

 標的となるのは男性だけではない。冷戦期、東ドイツの情報機関シュタージのトップを長く務めたマルクス・ボルフは、西ドイツに「ロミオ・スパイ」を送り込んで権力を持つ女性に接近させ、機密情報を集めたという。80年代初頭には、ガーナに赴任したCIA(米中央情報局)の女性職員シャロン・スクラネージがガーナの男性と恋愛関係になったが、この男性はその後ガーナの情報機関の職員であることがわかった。

 最近では昨年、ロンドンオリンピックのスポンサー集めのために北京を訪問中だったロンドンの元副市長イアン・クレメントが、レセプションで「美しい中国人女性」と出会ってホテルの部屋に一緒に帰ったところ、薬物を飲まされてもうろうとなり、持っていたブラックベリーや資料を盗まれるという出来事があった。

 日本にも戦国時代から江戸時代にかけては各国、各藩の情勢を探る女性の間者がいたのだから、混沌とした今の世界でハニートラップが続いていても何も驚くことではない。時代の今昔、洋の東西を問わず、人間の一番の弱点は変わらないということなのだろう。

――編集部・知久敏之

このブログの他の記事を読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、いずれロシアとの交渉必要 「立場は日々

ビジネス

米経済「まちまち」、インフレ高すぎ 雇用に圧力=ミ

ワールド

EU通商担当、デミニミスの前倒し撤廃を提案 中国格

ビジネス

米NEC委員長、住宅価格対策を検討 政府閉鎖でGD
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story