コラム

ゲイの若者たちをつなげ!

2010年10月10日(日)17時16分

 アメリカで若い同性愛者がいじめを理由に自殺する事件が相次ぎ、大きな波紋を呼んでいる。

 ニュージャージー州立ラトガース大学1年生のタイラー・クレメンティが、ニューヨークとニュージャージーを結ぶジョージ・ワシントン橋から飛び降りたのは9月22日。自室で恋人の男性とセックスしているところをルームメイトに盗撮され、その映像をインターネットに投稿された直後のことだった。加害者の学生2人は、プライバシー侵害容疑で逮捕された。

 同じ週にはカリフォルニア州の男子学生(13)、テキサス州の男子学生(15)がやはり同性愛者であることを理由にいじめられ、自殺する事件も起きた。

 これらの事件を受けて、多くの有名人がゲイの若者を支援する活動に協力し始めている。

 先週、リズ・クレイボーン社のチーフ・クリエイティブ・オフィサーで、デザイナー発掘番組『プロジェクト・ランウェイ』のホストを務めるティム・ガン(57)はメッセージビデオを発表。ゲイであることを理由にいじめを受け、100錠以上の薬を飲んで自殺を図った過去を明かしながら、若者たちへの応援メッセージを送った。「ひどく絶望した17歳の私は自殺を試みた。それが成功しなかったことを今はとても嬉しく思う。でもその時は、そうすることしか考えられなかった。......でも、あなたは1人じゃない。状況は必ずよくなる」
 
 このビデオは、ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)の若者の支援を目指す非営利団体「トレバー・プロジェクト」の活動の一環で作られたもの。同性愛者の兄を持つ女優アン・ハサウェイや、人気ドラマ『Glee グリー』でゲイの高校生を演じるクリス・コルファー(私生活でもゲイを公表)ら多くの有名人も協力している。

 このほかにもコメディアンのエレン・デジェネレスがトーク番組でクレメンティ事件に対するコメントを発表したり、『Glee グリー』のプロデューサーが10代の同性愛者の悩みを描いたエピソードを制作すると発表したりしている。

 いじめの問題が深刻なのはどこの国でも変わりはない。LGBTの子供たちにとっては特にそうだ。ある調査によれば、LGBTの子供はそうでない子供よりもいじめ被害率がかなり高く、鬱病になったり自殺したりする率もずっと高い。

 ちなみにクレメンティの事件が大きく取り上げられると、同性愛バッシングだ、ヘイトクライム(憎悪犯罪)だと非難する声も上がった。しかし加害者にそこまでの意識はなく、軽いおふざけのつもりでやった可能性が高い気がする。インターネット上でプライバシーを暴露する「いじめ」が、旧来のいじめ以上に大きな衝撃を与えてしまった結果ではないかと思う。

 何はともあれ、異性愛が当然という文化の中で、自分がLGBTであることを誰にも話せず、1人で悩んでいる子供たちはどんなに辛いだろう。トレバー・プロジェクトでも呼び掛けているが、何より大切なのは彼らを孤立させないこと。相談する場所がある、悩みを話せる相手がいることがわかれば絶望的な状況から一歩踏み出せる。

 ひるがえって日本でもNPO法人アカー(OCCUR)など、LGBTのネットワーク作りや差別解消活動を続けている団体はある。同じくNPO法人のピアフレンズは10、20代のゲイの友達作りイベントを主眼とした団体。仲間同士を「つなげていく」ことの大切さを主催者側は実感しているようだ(しかし同性愛がらみの大きな問題が起きたとしても、日本の有名人がゲイ団体のための宣伝を買って出るという状況はどうにも考えづらいが......)。

 ネットを使って他人と「つながる」ことが簡単になり、LGBTの人たちも昔よりは仲間を見つけやすくなったという話は聞く。それでも実際に会って、面と向かって話をすることの安心感はサイバー空間でのつながりには代えられない。そういう意味で、もっと彼らをつなげていく活動が盛んになったらいいなと思う。


――編集部・大橋希

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story