コラム

悪いのは日銀か?

2010年08月31日(火)13時42分

 日銀が8月30日に打ち出した追加金融緩和策は、「too little, too late(小さ過ぎて遅過ぎる)」と内外のメディアから散々叩かれている。大手町駅の小さな書店でも入り口近くの棚に「日銀がデフレを招いた」とか「日銀が日本をダメにした」という類のバッシング本を並べているほどだから、よほど反感を買っているのだろう。だが、本当に悪いのは日銀なのか。

 そもそもゼロ金利で金余りのところに金融緩和をやっても、円高対策あるいはデフレ対策としてそれほど効果があるとは思えない(為替市場への協調介入は、アメリカもヨーロッパも自分たちの通貨を安くしておきたいためにできそうにない)。
 
 それなのに、過去3週間の市場の動きはほとんど恫喝だった。とくに8月24日に菅首相と日銀の白川総裁の電話会談が15分で終わった後、ニューヨーク市場で円は84円を割り込み15年ぶりの高値をつけた。株価も同時に下げ足を速め、日銀は追い込まれた。追加緩和から一夜明けた今日は早くも、円高・株安に逆戻りしている。報道によれば、市場が一段の金融緩和を日銀に求めているのだという。底の抜けたバケツにお金を注ぎ込まされるようで、納得が行かない。

 白川総裁が金融緩和に消極的なのは、日本が今デフレなのはお金が十分出回っていないせいではなく30兆円の需給ギャップがあるせいだと考えているから。だとすればお金を増やしても解決にはならない。世界経済危機のせいで需要が急激に落ち込みデフレになっているこの状態を抜け出すために必要なのは、企業や人がお金を使いたくなる政策だろう。

 だが今、日本の政治は経済政策どころではない。円高・株安で市場が恫喝しているのはむしろ、そっちのほうではないか。日銀バッシングに明け暮れていると、他のもっと重要な政策が疎かにされているのを見過ごしてしまいそうだ。

──編集部・千葉香代子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story