コラム

渦中のモスクを何と呼ぶか

2010年08月24日(火)11時53分

 アメリカのモスク(イスラム礼拝所)論争が過熱している。9・11テロが起きたニューヨークの世界貿易センタービル跡地(グラウンド・ゼロ)近くのモスク建設計画をめぐって、今週22日には現地で賛成・反対の両派がデモを繰り広げた。反対派はテロ実行犯がイスラム教徒だったことを強調し、賛成派は「信教の自由」などを訴えている。

 このモスクを論じるとき、その呼び方に個人や組織の立場がはっきり現れる。本誌デービッド・グラハム記者の分類に少し補足しながら、実際に使われているモスクの呼称をいくつか紹介しよう。

1.The Ground Zero Mosque

 ずばり、グラウンド・ゼロ・モスク。建設予定地はグラウンド・ゼロから2ブロック離れているが、あえて直接結び付けてこう呼ぶ。「テロ現場にモスクが建つ」というニュアンスが刺激的なためか、サラ・ペイリン前アラスカ州知事ら反対派が好んで使う。賛成派には思いつかない言葉だろう。賛否は別として、短くて分かりやすいため記事の見出しに使うメディアも多い。

2.The 'Ground Zero Mosque'

 「グラウンド・ゼロ・モスク」とカギカッコが付く感じで、いわゆる──というニュアンスがある(日本の保守系メディアが「いわゆる従軍慰安婦」と書くようなもの)。その内容を認めているわけではないという書き手の距離感を示し、客観報道を標榜するメディアもよく使う。短くて見出しに書きやすいという意味では、1番と同じく便利な表現。

3.Park51

 パーク51。モスクを含むコミュニティーセンター計画の公式な略称。現地の地番に基づいた、やや気取った名前。モスクの呼称にこだわる米ヤフーニュースの記者マイケル・カルデロンが意識的に使うが、一般にはあまり普及していない。

4.Mosque Near Ground Zero
 
 グラウンド・ゼロ近くのモスク。2番より正確だが、ややまどろっこしい。ニューヨーク・タイムズ紙はこの手の控えめな表現を使う。同紙は、建設予定地がグラウンド・ゼロから2ブロック離れているという事実を必ず記事の中で説明するという。「この議論が強い政治色を帯びるなか、正確を期すことが重要だとわれわれは考えている」と、同紙の編集者は米ヤフーニュースに語っている。さらに、「グラウンド・ゼロ・モスクと呼ぶことは、モスクが世界貿易センター跡地に建つという誤った印象を与える」とも言う。この生真面目さに敬意を表したい。

5.Mosque in Lower Manhattan

 マンハッタン南部のモスク。4番よりさらに無難で、グラウンド・ゼロがらみの否定的なニュアンスを含まない表現。ニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長やオバマ大統領はこの路線だ。

6.The Ground Zero Terror Mosque

 グラウンド・ゼロ・テロモスク。モスクをめぐる今の論争はばかげていると考える皮肉屋が使う。

7.Obama's Mosque

 オバマのモスク。これも冗談──と思いきや、公的な場で実際に使っている人がいた。フロリダ州の共和党知事候補リック・スコットが、自分のテレビ選挙広告にこのタイトルを付けた。オバマ大統領がモスク建設支持と受け止められる発言をしたことを受けたものだろう。「大統領、グラウンド・ゼロはモスクを建設してはいけない場所です」などと語る30秒のメッセージは、対立候補にも地元フロリダ州にも一切触れない不思議な選挙広告だ。

     *

 それにしても、一部のイスラム過激派がテロを起こしたからといってイスラム教そのものを目の敵にするのは、やはりおかしい。北朝鮮が拉致事件を起こしたからといって在日朝鮮人を排斥するようなものだ。

──編集部・山際博士

このブログの他の記事を読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、中国副首相と15─16日にパリで会談 

ワールド

イランの加州攻撃警告は未確認情報、脅威存在せず=米

ビジネス

トルコ中銀、政策金利37%に据え置き 燃料価格上昇

ワールド

紅海の米空母で火災発生、2人負傷 戦闘とは関連せず
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 3
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 4
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 8
    ハメネイ師死亡が引き起こす「影の戦争」――中東外で…
  • 9
    ヘンリー王子夫妻が4月に豪州訪問へ、メーガン妃は女…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story