コラム

Newsで英語:米軍ゲイ「聞くな言うな」

2010年06月04日(金)00時43分

 これは世界最強の米軍の構成員を左右し、アメリカ社会に幅広い影響を与える歴史的な法改正になる。もちろん在日米軍にも大いに関係あるはずだ。


【Don't ask, don't tell】

聞くな、言うな──同性愛者の勤務が禁じられている米軍で、本人がゲイまたはレズビアンであることを公言しない限り(「言うな」)、その勤務を容認する政策・法律のこと。軍当局が兵士の性的志向を聞くことも制限されている(「聞くな」)。略称DADT。


 このDADT法が撤廃されようとしている。同性愛者が大っぴらに米軍で働けるようになる日が近付いているのだ。
 
 DADT法は the law known as "don't ask, don't tell" (「聞くな、言うな」として知られる法律)とか、単に"Don't ask, don't tell"と呼ばれる。
 
 同法は93年に成立した。米軍は何十年も前から同性愛者の入隊を禁じていたが、ビル・クリントンはその解禁を公約して大統領になった。だが反対が強かったため、妥協の産物として、本人が同性愛者であることを隠し通すことを条件に入隊を認めることにした。

■同性愛者1万2000人以上を追放

 一見前進したようにも見えるが、ゲイである自分を偽り否定することを強いるのは差別的だとの批判が高まった。

 そもそも同性愛者禁止が軍にとってマイナスだとの意見も根強い。同性愛者とバレた優秀な兵士を追放する一方で、定員を埋めるために怪しい元犯罪者を入隊させるようでは本末転倒だろう。まるで企業が無名大学出身という理由で有能な人材の採用を取り消し、落ちこぼれの有名大学出身者を採用するようなものだ(追記:採用する側が偏見にとらわれていることの例えで、表現を一部変更しました)。

 これまで1万2000人以上がゲイかレズビアンという理由で軍を追い出された。タイム誌によると、軍当局は志願者の応募書類や面接では「聞くな」原則を受け入れたが、入隊した兵士に対してゲイかどうか調べることはやめなかったという。

 マッチョな軍隊にゲイが入ったら士気が落ちるなどといった、もっともらしい反対論がいまだにあるらしい。だが大半が思い込みの域を出ていないようだ。世界ではオーストラリア、カナダ、イスラエル、イギリスなど25ヶ国の軍が同性愛者の入隊を認めている。

「私は特殊部隊のゲイ将校だ」と公言するイスラエル軍中佐ヨニ・シェーンフェルドは、自らの体験をもとに米軍のDADT政策を批判するエッセイをニューズウィークに寄せている(日本版2月24日号)。

■在日米軍でも兵士のいじめが増える?

 バラク・オバマ大統領にとってDADT法の撤廃は公約だった。今年2月、ロバート・ゲーツ国防長官とマイク・マレン統合参謀本部議長という軍のトップ2人が、同性愛者が堂々と任務に就けるようにしようと議会に働きかけた。これで撤廃への流れは決まった。

 5月27日、米議会下院が撤廃法案を可決した。上院軍事委員会も同様の修正案を可決しており、上院本会議で6月にも可決される見込みだ。国防総省は同性愛者の勤務による軍への影響について調査報告書を12月までにまとめる予定。DADT撤廃はそれ以降になる。

 兵士がゲイを公言できるようになっても、しばらくは現場で混乱が起きるかもしれない。ニューヨークタイムズ紙は、いじめや差別が増えるとの懸念を伝えている。「抑止力」として4万人以上の米兵が駐留する日本にとっても無関係ではない。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EU、VWの中国生産EV向け関税撤廃を検討

ワールド

米、AUKUS審査完了 「強化する領域」特定と発表

ビジネス

ネトフリ、米ワーナー買収入札で最高額提示=関係筋

ビジネス

孫会長ら、ソフトバンクグループ株の保有比率34.7
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story