コラム

アキノはフィリピン大統領の器か

2010年05月11日(火)18時03分

 初の電子投票で行われたフィリピン大統領選は、故コラソン・アキノ大統領の息子、ベニグノ・アキノ上院議員が当選しそうだ。

 経済でも貧困撲滅でもなく汚職防止を第一目標に掲げたアキノが圧勝しそうなのは、9年半という長期に及んだアロヨ政権が、経済運営では01年から08年までの平均成長率5・1%というそれなりの成績を残しながら、フィリピンの宿痾とも言うべき汚職で何ら有効な手立てを打てなかったことをはっきりと示している。

 NGOの世界汚職ランキング調査によると、アロヨが副大統領から大統領に昇格した01年のフィリピンの順位は65位だった。それが正式に大統領に当選した04年は102位、09年は139位と年々悪化の一途をたどってきた。

 両親がマルコス長期独裁政権と戦ったアキノに、フィリピン国民が政界浄化を期待するのは分かる。だが政治的にクリーンであることと、国家を指導する能力とは必ずしも一致しない。

 アキノは98年に下院議員に当選して政界入りするまで会社員などとして過ごし、87年のクーデター未遂事件で5発の銃弾を受けた以外、目立った経歴はなかった。下院、そして上院議員に当選したあともこれと言った実績はなく、昨年8月の母コラソンの死去で急きょ野党自由党の大統領候補に浮上した。

 フィリピン紙マニラ・スタンダード・トゥデーの記者ジョジョ・ロブレスはコラムの中で、ビジネスマンとしてのアキノを知り、今も公式には彼を支援する人物の話を引用して、その政権運営能力を疑問視している。


 広まっているアキノのビジネスマンとして印象は、決断を避けたがる人物、ということだ。「彼は決断をしたがらない人物に見えた」と、ニュースソースは言う。「彼はたいてい他人に決断を譲り、そして『副産物』を待っていた」  

 つまりはこういうことさ、とニュースソースは言った。「要するに最も一緒に働きたくない種類の人物ということ。もし彼が勝ったら、誰か他の人物に『手綱』を握ってもらいたいね。さもないと、とんでもないトラブルに巻き込まれてしまう」

 日本では報じられていないが、選挙期間中、アキノはライバルのビリヤール陣営から「79年に精神鑑定を受けた」と指摘されていた(鑑定を担当したとされた心理学者がのちに否定)。

 精神鑑定は眉唾だとしても、こんな話が選挙のネタになるのは、アキノの大統領としての適性に対して有権者が大なり小なり不安感を抱えているからだろう。コラソンは政治手腕がないに等しい大統領だったが、フィリピンの民主化を進めるという時代の役割は果たした。だが現在のフィリピンは24年前とは違う。

 不安を感じながらも、民主化革命の立役者の死という勢いに乗ってその息子を大統領に押し上げてしまう――フィリピンの国民性は、マルコス政権と戦った政治家の妻だったというだけでコラソンを大統領にした86年当時と、あまり変わっていない。

 電子投票というデジタルな手法が取り入れられた選挙だったが、フィリピンという国の中身は相変わらずアナログなままらしい。

――編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

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