6月19日から東京・恵比寿の東京都写真美術館ホールで、1974年に製作されたベトナム戦争のドキュメンタリー映画『ハーツ・アンド・マインズ/ベチナム戦争の真実』が公開される。全米テレビネットワークでドキュメンタリー番組を作っていたピーター・デイヴィス監督が、アメリカとベトナムで多くの兵士、政治家、関係者にインタビューして、「共産主義の拡大を阻止する」戦争の大義と、戦場の悲惨な現実との乖離を描く。

 アメリカでは、戦争捕虜となってから帰還した兵士が地元のイベントや学校で講演し、正義の戦争への支持を訴える。ベトナムでは、米軍のナパーム弾や枯れ葉剤で我が子を殺された人たちが怒りを爆発させるー―。製作から35年を経ているが、この映画が提起する問題は今アメリカが抱えるイラクやアフガニスタンの現状を思い起こさせて、とても今日的だ。

 ただ一点、ベトナム戦争当時と現在のアメリカが大きく変わったと感じさせるところがある。それはワシントンのナショナル・モールで開かれたベトナム反戦運動の大集会だ。当時まだ徴兵制度があったアメリカでは、徴兵の対象となる学生が中心に始まった反戦運動は政治を動かす大きなうねりとなった。73年のベトナム戦争和平協定を機にアメリカの徴兵制度は廃止され、志願制度へと移行している。

 イラク戦争開戦時にも反戦運動はあったがベトナム戦争ほどの影響力は持たなかった。その背景には9・11テロ直後で国民の間に報復をやむなしとする機運もあっただろう。ただ仮に徴兵制度が残っていたら、開戦の決断はもっと複雑になっていたはずだ。戦場の恐怖を切実に感じることがなければ、いくらニュースや映像で悲惨な現実に触れても政治を変えようと自ら行動する原動力にはならない。

 アメリカは今もイラクとアフガニスタンに2つの前線を抱える「戦時」だが、それを日常生活で感じさせることは少ないはずだ。テレビを付ければ能天気なコメディやリアリティ番組が溢れている。それが健全なのか不健全なのかはわからない。ただ政府にとって、世論の是認を取る面倒な手間が省ける都合のいい制度になったことは事実だ。

―ー編集部・知久敏之

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