コラム

ギリシャ危機は「放火」のせいか

2010年03月15日(月)13時07分

 まるで隣家に火災保険を掛けておいて、保険金をせしめるために放火するようなものだ──。ギリシャのパパンドレウ首相が先週こんな例え話を持ち出した。何をぶっそうなことを言っているのか。

 ここで「隣家」とはギリシャ、「火災保険」はクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、そして「放火」は投機的な取引を指すと思われる。ギリシャの財政危機をあおったのはCDSだとして、CDS取引の規制を呼びかけたのだ。

 CDSと言えば、あの保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が破綻するきっかけになった金融派生商品(デリバティブ)だ。保険に似た商品で、あらかじめ「保険料」を支払っておけば、貸出先の企業や政府が破綻した場合に「保険金」として貸し倒れの損失を肩代わりしてもらえる。 

 投資家がギリシャ国債を買う際、「ギリシャが破綻するかもしれない」と思えば、取りっぱぐれないようにCDSを買う。ところが実際には国債を買ってもいないのに投機目的でCDSを買う動きがあり、それが危機をあおっている──というのがパパンドレウの言い分だ。EU(欧州連合)各国もほぼ同じ意見で、国債CDSを規制しようぜ!という話が急に盛り上がってきた。

 こうした見方に反論する専門家は多い。CDSを規制すればギリシャに金を貸すリスクが跳ね上がるので、ギリシャにとっては借金するのが難しくなり、かえって危機は悪化しかねないという。

 そもそも「放火」の例えが(面白いけど)間違っているのではないか。火災保険を使って放火することはできない。ギリシャさん宅で火事が起きそうだと思われているのは、家の住民がちゃんと火の始末をしていないから。火の付いたタバコに毛布をかぶせ、火が消えたように見せかけていたからだ。
 
 パパンドレウのぶっそうな例え話で、マレーシアのマハティール前首相を思い出した。マハティールは97年のアジア通貨危機の際、あのジョージ・ソロス率いるヘッジファンドなどを「ならず者の投機家」とののしった。

 放火といい、ならず者といい、窮地に陥った指導者はどうやら極悪のスケープゴートを必要とするようだ。

 ちなみに「ならず者」たちはリーマン・ショック後に「隠れた優良企業」と称えられた。今も堅実に稼いでいるという。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月国内企業物価指数は前年比+2.7%、前月比+

ワールド

G7外相、ウクライナ和平実現へ対ロ圧力強化を検討

ワールド

米最高裁、クックFRB理事解任訴訟で来年1月21日

ビジネス

インドCPI、10月は過去最低の+0.25%に縮小
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story