コラム

2019年、日本株2倍の「真実味」

2010年03月11日(木)11時00分

 年初に市場で流行ったクイズ。2019年、株価が09年末と比べて2倍になった国、横ばいだった国、半分になった国があった。アメリカ、日本、新興市場のうち、あてはまるのはどれか。

 答えは、2倍になるのが新興市場、横ばいがアメリカ、50%下落するのが日本――ではない。住宅と金融のバブル崩壊から立ち直れず株価も横ばいなのがアメリカ、というところは合っている。だが株価が半分になるのはインフレに襲われる新興市場のほうで、2倍になるのは日本だという。えーっ!!

 このクイズの基になっているのは、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が昨年12月30日にLex欄に掲載した記事「Looking back from 2019」。世界各地のFT記者がチームで執筆するLexは社説的な性格も兼ねた名物コラムで、とくに年末の回顧や展望記事は必見とされている。

 そこに「日本株2倍」のシナリオを入れてもらえたのは嬉しいが、半ばしゃれに違いない。記事にも「日本企業が株主重視に転じてROE(株主資本利益率)が急上昇する」とある以外、根拠らしい根拠は何も書かれていない。それでも、考えたこともない可能性に目を向けさせられたことで、単純にも世界の見方が少し変わった気がする。市場でこのクイズが流行ったのもきっと、議論に値する真実味がわずかでも含まれていたからだろう。

 日本株が2倍になりうる根拠を挙げろと言われても手に余るが、明るい材料もある。足下では企業業績が回復しつつある。2009年10~12月期の経常利益はリーマンショック直後の前年同期に対して倍になった。設備投資も底入れしそうだ。1月の貿易黒字は前年同月に比べて約41%増の4兆9000億円。30年ぶりの高い伸び率だという。1ドル=90円前後の円高にもかかわらずこれだけ黒字を稼ぎ利益を出せるのは、人減らしと設備廃棄でスリムになったせいだろう。

 だが、それだけではない。1月の貿易統計の発表直後、ウォールストリート・ジャーナル紙に面白い記事が載った。まず、今や日本の輸出先は圧倒的にアジアだ。中国を含むアジアへの輸出は前年同月より68.1%伸びて2兆7200億円になり、輸出全体の55%を占める。これに対してアメリカ向けは、24.2%増の7104億円に過ぎない。そしてアジアの貿易パートナーは、輸出代金総額の半分近くを円で払ってくれるようになっている。それだけ円高の影響を受けにくくなったということだ。

 日本にはグーグルがないとかiPodが生まれないという批判には一理ある。だが日本は世界で最も成長率の高いアジアの玄関口にあり、半導体や自動車、機械部品やプラスチックなど彼らが必要とする製品をもち、長い年月をかけて現地法人や円決済も含めた貿易インフラを作ってきた。これだって、一つの株価上昇要因ではないか。

 また日本企業は、借金が少なく大量のキャッシュをもっている。キャッシュは利益を生まないと欧米の投資家からはだいぶ叩かれたが、おかげで金融危機の煽りで借金返済に行き詰まったゼネラル・モーターズ(GM)のような運命をたどらずに済んだ。あとは強い分野を見つけ、集中投資するだけだ。それでROEが上がれば、Lexは単なるしゃれではなかったことになる。

――編集部・千葉香代子


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコイン史上最高値更新、12万5000ドルを突

ワールド

ロ、ウクライナに無人機・ミサイル攻撃 ポーランド機

ワールド

トランプ氏のポートランド派兵一時差し止め、オレゴン

ワールド

北朝鮮、さらなる軍事的手段開発へ 金氏「在韓米軍増
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 4
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 5
    イエスとはいったい何者だったのか?...人類史を二分…
  • 6
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 7
    謎のドローン編隊がドイツの重要施設を偵察か──NATO…
  • 8
    墓場に現れる「青い火の玉」正体が遂に判明...「鬼火…
  • 9
    「美しい」けど「気まずい」...ウィリアム皇太子夫妻…
  • 10
    一体なぜ? 大谷翔平は台湾ファンに「高校生」と呼ば…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 8
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story