コラム

海外ドラマ入門:熾烈な「パイロット・シーズン」

2010年03月05日(金)12時00分

 今日はテレビ業界話を一つ。

 アメリカのテレビドラマ業界にとって、今は放送シーズンのちょうど中盤(基本的にテレビドラマは1年のうち9月~5月に放送されるシリーズが多く、9月に始まるものもあれば、1~2月にようやく始まるものもあります)。9月頃から始まるシリーズはそろそろ終盤を迎え、1~2月から始まる後発組も今の時期には視聴者の間で「面白い」「今シーズンはイマイチ」といった評価が決まってきます。

 でもテレビドラマ業界の人々にとっては、すでに来シーズンの新番組枠を競う「パイロット・シーズン」でもあります。新しいドラマが製作される場合、通常はまずパイロット版と呼ばれるテスト版のようなものが作られます。登場人物や配役、番組の雰囲気や大まかなストーリー設定が分かるような内容で、たいていはシリーズの第1話に該当するようなもの。

 各局は毎年1~2月に、数ある番組案の中から有望そうな作品を厳選してパイロット版を発注します(ABCやNBCなど主要ネットワーク局はドラマ、コメディー合わせて20作品近く、ケーブル局はもっと少ない)。そして出来上がったものを見ながら、4月末頃までに来シーズンの新番組を決めるのです(最終的に選ばれるのはほんのひと握り)。

 今年も1月に入ってからは、各局のパイロット版をめぐるニュースが連日飛び交い、ようやく各局のパイロット版企画が出揃った感じです。

 今年の注目点は、大物ヒットメーカーが関わる企画が多いこと。とりわけ大物ぞろいなのがNBC。科学捜査班ドラマ『CSI』シリーズを生んだジェリー・ブラッカイマーは逃亡ドラマ『チェイス』、『LOST』『エイリアス』などを手がけたJ・J・エイブラムズはCIA捜査官の夫婦が主人公の『アンダーカバー』、『アリー・myラブ』のクリエーターを務めたデイビッド・E・ケリーは弁護士ドラマ『キンドレッズ』のパイロット版を製作することが決まっています。

 NBCがこれほど力を入れる背景には、昨年から続く人気司会者ジェイ・レノをめぐる騒動があります。彼が昨年スタートしたNBCのゴールデンタイムの番組を2月で打ち切り、一度は降板した同局の深夜トーク番組に復帰したため、夜の番組枠(週5時間)が空くことに。NBCとしては騒動の痛手を挽回するためにも、視聴率のとれる新シリーズがほしいわけです。

 とはいえ、いくら大物クリエーターの作品でもヒットするかどうかは未知数。人気がなければ数話で打ち切られることも(たった1話で打ち切られたシリーズもありました)。パイロット・シーズンを勝ち抜いても、さらに過酷な現実が待っているわけですが、そんな環境が飛躍を生むのかもしれません。

──編集部・佐伯直美

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story