コラム

中国「イケメン」ホームレス王子、人気の秘密

2010年03月04日(木)12時00分

 浙江省寧波市で充電器の部品工場を経営する屠さんはカメラが趣味。今年1月30日の朝、市の中心部にある広場で新しいレンズを使って試し撮りしていた彼は、目の前に現れたちょっと特別な雰囲気の男を思わずファインダーに捉え、シャッターを押した。

 屠さんが写真愛好家のフォーラムにアップした男の写真をきっかけに、春節明けの中国でちょっとした騒ぎが起きている。

 彼はミックスアンドマッチ風のファッションに無造作ヘアー、鋭く憂いを含んだ眼のイケメンホームレス。中国ネチズンは「犀利哥(鋭い兄貴)」と呼んでそのファッションセンスとイケメンぶりを絶賛し、今も「人肉検索(ネットを利用した個人情報収集)」を続けている。

 ネチズンの集めた情報によれば、ホームレス王子は自称36歳。仕事も家族もない。精神に問題を抱えているらしく、時に女性の服を着ていることもある。真っ黒な手が正真正銘のホームレスである何よりの証しなのだという。

 ネット上のことだから、すべてを真に受けることはできない。やらせの可能性もある。ただ中国人がホームレス王子に夢中になる背景について考えてみる価値はある。

■中国人の価値観が変わり始めた?

 ホームレス王子が受けるのは、「ホームレス」なのに「イケメン」であるというギャップゆえ。インターネットを使った双方向性の時代に、ネチズンが自分たちでアイドルをつくり出す楽しみに目覚めたところもあるだろう。

 それ以上に、ホームレス王子は中国人の眼に「貧困のヒーロー」として映っているのかもしれない。

 60年代から70年代にかけての文化大革命の時代、中国には「貧困のヒーロー・ヒロイン」が溢れていた。貧しければ貧しいほど良く、金持ちは「階級の敵」すなわち悪だった。豊かさは不純を、貧しさは清らかさを意味していた。

 もちろんホームレス王子は文革時代のヒーローと同じではない。ブームの背景には、今の中国人がある程度豊かになって、貧困を客観視できるようになったこともあるだろう。ただ貧困を肯定的に捉えようとする心理に文革時代と共通する部分はあるはずだ。

「金持ちになるのは栄誉なことだ」という鄧小平の号令の下、中国人は30年間豊かさを目指して突っ走って来た。その価値観が微妙に変わり始めているのかもしれない。

----編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏とフアン氏、米サウジ投資フォーラムでAI討

ビジネス

米の株式併合件数、25年に過去最高を更新

ワールド

EU、重要鉱物の備蓄を計画 米中緊張巡り =FT

ワールド

ロシアの無人機がハルキウ攻撃、32人負傷 ウクライ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story