コラム

3D映画『アリス』ボイコットで浮上したDVD論争

2010年03月28日(日)10時00分

 ティム・バートンの最新作『アリス・イン・ワンダーランド』がヨーロッパで上映されない可能性があったことをご存じだろうか? 

 内容に問題があったわけじゃない。事の発端は、『アリス』を製作したディズニーが、映画の公開から3カ月でDVDを発売する意向を示したこと。これに怒ったのが映画館を所有する興行主たちだ。すぐにDVDが発売されると分かっていれば観客の足が遠く、というのが彼らの言い分だった。

 映画の公開からDVDの発売までの間隔は短くなる一方。10年前は半年ほどあったのに、今は公開から17カ月後が主流。それをさらに短くするというディズニーに、劇場側がキレた。

 英映画館チェーン大手オデオンは、イギリスやアイルランド、イタリアに所有する映画館では『アリス』以外の3D映画を優先すると発表。シネワールドやヴューも同様の立場を示したほか、オランダやベルギーの映画館もボイコットを示唆した。

 ディズニーはこれに対し、DVD発売の間隔を短縮するのは海賊版が出回るのを防ぐためだと説明している。もっとも、このところ『カールじいさんの空飛ぶ家』くらいしかヒットが出ていないディズニーにとっては『アリス』は頼みの綱。映画の話題の余韻があるうちに、DVDを発売して何とか稼ごうという考えもあるようだ。映画と一緒にDVDを宣伝してしまえば、マーケティング費用も節約できる。

 BBCは、6月中旬に南アで開幕するサッカーのワールドカップの影響を指摘している。通例に従えば、ワールドカップの間はDVDがまったく売れない。だから発売を早めたいのではないか、と。
 
 ロサンゼルス・タイムズは、ディズニーが他の映画会社よりも熱心にDVD発売前倒しを進める理由を、経営陣のキャリアの視点で説明する。他の映画会社の経営トップは「映画人」が多いのに対し、ウォルト・ディズニー・カンパニーのロバート・アイガーCEOも、ウォルト・ディズニー・スタジオのリッチ・ロス会長もテレビ出身。映画業界に感情的な思い入れはないし、すぐに結果を求めるタイプだという。

 結局、ボイコットはチャールズ皇太子を招いて2月下旬にロンドンで行われた試写会直前に、解消された。ディズニーと劇場主たちとの合意内容は明らかにされていないが、発売を前倒しする作品数に上限を設けたのではないかとみられている。

 ふたをあけてみると、3月5日にアメリカやイギリスで公開されて以来、『アリス・イン・ワンダーランド』は大ヒット。公開3週間で世界で5億6580万ドルを稼ぎだした。イギリスでも3週連続1位を獲得。DVD発売の前倒しが興行収入に影響するという映画館側の主張は崩れてしまった。

 もっとも、今回発売されるDVDは2D版。3Dを体験したければ、映画館で見るしかない。だから映画館に足を運ぶ人も多いのだろう。 

 DVD発売前倒しと映画の興行収入の関係の答えは、まだ分からない。映画館側に配慮してこれまで前倒しに及び腰だった他の映画会社が、今後ディズニーに追随する可能性はある。『アリス』が開けたタブーの扉が業界全体を変えることになるのだろうか。

ーー編集部:小泉淳子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NATO燃料網、数百キロ東へ延伸を ロシア有事に備

ワールド

ロシア、イラン指導者殺害を非難 米・イスラエル攻撃

ワールド

中国、中東での停戦仲介継続へ=外相

ビジネス

ウニクレディトCEO、コメルツ銀への提案条件改善を
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 6
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 7
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story