ティム・バートンの最新作『アリス・イン・ワンダーランド』がヨーロッパで上映されない可能性があったことをご存じだろうか? 

 内容に問題があったわけじゃない。事の発端は、『アリス』を製作したディズニーが、映画の公開から3カ月でDVDを発売する意向を示したこと。これに怒ったのが映画館を所有する興行主たちだ。すぐにDVDが発売されると分かっていれば観客の足が遠く、というのが彼らの言い分だった。

 映画の公開からDVDの発売までの間隔は短くなる一方。10年前は半年ほどあったのに、今は公開から17カ月後が主流。それをさらに短くするというディズニーに、劇場側がキレた。

 英映画館チェーン大手オデオンは、イギリスやアイルランド、イタリアに所有する映画館では『アリス』以外の3D映画を優先すると発表。シネワールドやヴューも同様の立場を示したほか、オランダやベルギーの映画館もボイコットを示唆した。

 ディズニーはこれに対し、DVD発売の間隔を短縮するのは海賊版が出回るのを防ぐためだと説明している。もっとも、このところ『カールじいさんの空飛ぶ家』くらいしかヒットが出ていないディズニーにとっては『アリス』は頼みの綱。映画の話題の余韻があるうちに、DVDを発売して何とか稼ごうという考えもあるようだ。映画と一緒にDVDを宣伝してしまえば、マーケティング費用も節約できる。

 BBCは、6月中旬に南アで開幕するサッカーのワールドカップの影響を指摘している。通例に従えば、ワールドカップの間はDVDがまったく売れない。だから発売を早めたいのではないか、と。

 

 ロサンゼルス・タイムズは、ディズニーが他の映画会社よりも熱心にDVD発売前倒しを進める理由を、経営陣のキャリアの視点で説明する。他の映画会社の経営トップは「映画人」が多いのに対し、ウォルト・ディズニー・カンパニーのロバート・アイガーCEOも、ウォルト・ディズニー・スタジオのリッチ・ロス会長もテレビ出身。映画業界に感情的な思い入れはないし、すぐに結果を求めるタイプだという。

 結局、ボイコットはチャールズ皇太子を招いて2月下旬にロンドンで行われた試写会直前に、解消された。ディズニーと劇場主たちとの合意内容は明らかにされていないが、発売を前倒しする作品数に上限を設けたのではないかとみられている。

 ふたをあけてみると、3月5日にアメリカやイギリスで公開されて以来、『アリス・イン・ワンダーランド』は大ヒット。公開3週間で世界で5億6580万ドルを稼ぎだした。イギリスでも3週連続1位を獲得。DVD発売の前倒しが興行収入に影響するという映画館側の主張は崩れてしまった。

 もっとも、今回発売されるDVDは2D版。3Dを体験したければ、映画館で見るしかない。だから映画館に足を運ぶ人も多いのだろう。 

 DVD発売前倒しと映画の興行収入の関係の答えは、まだ分からない。映画館側に配慮してこれまで前倒しに及び腰だった他の映画会社が、今後ディズニーに追随する可能性はある。『アリス』が開けたタブーの扉が業界全体を変えることになるのだろうか。

ーー編集部:小泉淳子

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