コラム

なぜウクライナは「世界一の親イスラエル国」なのか

2024年02月13日(火)20時00分

イスラエルに関していえば、アメリカでも「価値観を共有する同盟国」と捉える人は35%にとどまり、「協力すべきパートナーだが価値観は共有していない」(44%)より少ない。

とすると、KIISの分析の通りなら、ウクライナ人のイスラエル支持はイメージ的な「いかにも欧米的な」思考に近いものといえる。

「欧米的なもの」への渇望

なぜウクライナには欧米より「いかにも欧米的」な思考が強いのか。

最大の理由は、ロシアの脅威に直面するなか、ウクライナにとって欧米の一部であることが他のほとんどの国より死活的な重要性をもつことだろう。

旧ソ連構成国で、現在に至るまでNATO加盟国でもEU加盟国でもないウクライナは、欧米の主流ではない。しかし、そのことがかえって多くのウクライナ人に、欧米の主流派より「欧米らしく」あろうとする心理を強めているとみられる。

社会心理学者ヨランダ・イェッテン教授は新参者など傍流の方が、集団のなかで認められるために忠誠心を示しやすいと指摘する。

新入社員の方が、立場の確立された(言い換えると多少手を抜いても問題ない)先輩や上司より、会社や職場への貢献を意識しやすいのは、よく見る光景だ。同様にベトナム戦争などで、アメリカ国内で差別的に扱われていた黒人が数多く従軍したことも、この観点から理解できる。

とすると、いわば欧米の傍流であるウクライナでは、欧米主流派の国より「欧米的なもの」への渇望が強いといえる。

「見捨てられたくない」焦燥

これに拍車をかけているのは、「見捨てられかねない」という焦燥だろう。

イギリスに逃れたウクライナ難民女性はメディア取材に「(イスラエルのガザ侵攻で)メディアや市民がウクライナへの関心を低下させていることに、私だけでなく全てのウクライナ人が悲しんでいる」と応じた。

ガザ侵攻以前から、アメリカでさえ「ウクライナに援助しすぎ」という声が強まっていたことからすれば、これは偽らざるところだろう。

この焦燥が先述のムスリムへの反感と結びつけば、ハマス(やパレスチナ)への憎悪が強まっても不思議ではない。それは欧米各国以上に強いイスラエル支持を生む土壌といえるだろう。

ところが、当のイスラエルはこのウクライナの熱意に、極めてドライな反応しか示していない。それはなぜか(続く)。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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