コラム

災害大国なのにフェイクニュース規制の緩い日本──「能登半島地震の教訓」は活かせるか

2024年01月11日(木)20時50分
輪島市で地震後に鎮火活動にあたる消防士

輪島市で地震後に鎮火活動にあたる消防士(2024年1月5日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<事実に反する情報発信そのものを規制する法律のない日本。偽・誤情報の規制と表現の自由のバランスを保つ「難しさ」とは>


・世界を見渡すと、戦争、選挙、そして感染症を含む災害がフェイクニュース拡散の3大テーマともいえる。

・ところが、日本では表現の自由とのかね合いから、フェイクニュース拡散そのものの取り締まりは慎重な対応が続いてきた。

・規制強化に向けたグローバルな動きがあるなか、能登半島地震での経験は今後のフェイクニュース対策に重要な手掛かりを残すものといえる。

能登半島地震後に広がったフェイクニュースをめぐる問題は、「開かれた社会」のもろさを改めて浮き彫りにしたといえる。

体系的な取り締まりは難しい

戦争、選挙、そして災害(新型コロナのような感染症もここに含めていいだろう)。これがフェイクニュースの最も出回りやすい三大テーマといえるが、能登半島地震直後の状況はそれを再確認させるものだった。

地震に関連するフェイクニュースがあまりに多くなったことを受け、総務省が1月2日、X(旧Twitter)、メタ(Facebook)、グーグル、LINEヤフーの4社に不適切な投稿の削除を含めた対応を求めた。

一般的にフェイクニュースと呼ばれるものは偽情報(事実でない情報で意図的に発信されたもの)と誤情報(意図的でないもの)に分類される。

このうち偽情報には愉快犯だけでなく営利目的とみられるものもあるが、ともかく人命にかかわりかねないものもあるだけに、総務省の要請は状況の深刻さを象徴する。

ただし、総務省がプラットフォーム事業者に特例的な要請をしたこと自体、偽・誤情報の体系的な取り締まりが難しいことの裏返しである。

実際、日本には事実に反する情報の発信そのものを規制する法律はない。

偽・誤情報が罪に問われることもあるが、そのほとんどは名誉毀損罪など既存の法律が適用されてきた。たとえば2016年の熊本地震の直後、ライオンが動物園から脱走したかのような写真を当時のTwitterに掲載した投稿者は、偽計業務妨害の容疑で逮捕された。

意図しない誤情報でも、虚偽の情報の拡散という点では変わらないため、罪に問われることも法的にはあり得る。

表現の自由との兼ね合い

ただし、コロナ感染拡大の時にもそうだったように、膨大な量の偽・誤情報が出回っていることを考えれば、実際に逮捕にまで至ったのはよほど注目を集めたものに限られるといっていいだろう。能登半島地震での偽・誤情報に関しても、松本総務相は「特に悪質なものについては」警察庁などと連携して対応する方針を示している。

mutsuji240111_fakenews.jpg

とりわけ目立ったものを、既存の法律で検挙するしかなく、それ以外に偽・誤情報を規制することが難しいのは、表現の自由との兼ね合いにある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story