コラム

パリを覆う反差別デモと大暴動──フランス版BLMはなぜ生まれたか

2023年07月03日(月)14時35分

「移民反対」の極右に塩を贈るか

今回の騒乱はフランスで極右がさらに台頭する一因にもなりかねない。

警官による発砲の規制緩和に関しては、もともと治安維持と移民制限を重視する保守派から一定の評価を得ていた。今回の発砲とナヘル死亡に関しても、SNSでは「犯罪者への発砲」「(ナヘルの両親は)息子の教育ができてなかった」といった書き込みも少なくない。

抗議デモが暴動に変質すればするほど、こうした論調も強くなりやすい。アメリカではBLM参加者による略奪や暴力行為が目立つにつれ、支持の世論は衰え、むしろ「社会の防衛」を叫ぶ極右の台頭を加速させた。

つまり、分断の結果である抗議が、さらに分断を促したといえる。

フランスでは昨年4月、大統領選挙が行われ、現職マクロンが再選を果たしたものの、決選投票で最後まで争ったマリーヌ・ルペン候補は過去最高の41.45%を得票した。ルペンは極右政党、国民連合の党首で、移民・難民の受け入れ、性的少数者の権利拡大などに反対してきた。

人種差別を引き金にした抗議デモや暴動が拡大し、これに否定的な世論が高まれば、フランスでこれまで以上に極右が政治的影響力を増すことも想定されるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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