コラム

なぜトランプは平気で「ウソ」をつけるか──ヒトラーとの対比から

2019年05月25日(土)17時00分

このうち、2017年10月に出版された、イエール大学バンディ・リー准教授のThe Dangerous Case of Donald Trump(ドナルド・トランプの危険なケース)は、27人の精神分析の専門家がトランプ氏の情緒不安定などの危険性を警告する内容になっている。

また、2018年9月にジョージ・ワシントン大学の精神分析学者ジャスティン・フランク教授が出版したTrump on the Couch(診察台の上のトランプ)は、その権威主義的な性格を幼少期から掘り起こした労作だ。

こうした研究の多くはトランプ氏に自己愛性人格障害の傾向を見出していて、イーロン大学のバイラル・ガンダウア准教授のように「トランプ氏は教科書に出てくるような自己愛性人格障害の持ち主だ。精神科医がそのように診断するのに苦労はない」と断言する専門家もある。

強すぎる自己愛がもたらす闇

自己愛性人格障害とは何か。詳しくは心理学者や精子分析学者に委ねるとして、ごく簡単にいえば「自分はかけがえのない存在だ」という思いが強すぎる状態で、いわゆるナルシズムである。

自分を大事に思うことは必要だとしても、強すぎる自己愛は周囲との摩擦を招きやすい。例えば、自己愛性人格障害の持ち主は批判されることを極度に嫌う。自己を大事にするあまり、正当な批判であっても聞く耳を持てないのだという。これは心理学などでは防衛機制と呼ばれる。

先述のガンダウア准教授は、トランプ氏には防衛機制のなかでも反動形成の特徴が鮮明だと指摘する。反動形成とは抑圧された欲求と反対の態度が強調して現れることを指す。トランプ氏が記者会見でCNNの記者をやり玉にあげたり、自分の意に沿わない情報を「フェイクニュース」と切って捨てたりするのは、もはやおなじみの光景だが、ガンダウア准教授によれば、あれらは基本的に不安や失意の反動だというのだ。

だとすれば、成果が乏しいほどトランプ氏が強気の「ウソ」を連発しやすくなるのは不思議ではない。

一般的に自己愛の強い者にとってウソは自らの弱さ、失敗、見当違いなどを覆い隠すうえで欠かせない。その際、自分を大きく見せるために話を誇張しやすくなるだけでなく、上手くいかない原因や責任を他者に転嫁しやすくなる。これらはいずれも自己愛性人格障害によくある子どもっぽさ、幼児性ともいえるが、こうした特徴もトランプ氏を思い起こさせる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ

ワールド

野村、今週の米利下げ予想 依然微妙
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story