コラム

なぜトランプは平気で「ウソ」をつけるか──ヒトラーとの対比から

2019年05月25日(土)17時00分

米大統領専用機エアフォースワンで日本に来る途中、アラスカのエルメンドルフ空軍基地に寄ったトランプ(2019年5月24日) Jonathan Ernst-REUTERS

<令和初の国賓として今日、日本を訪れるトランプ米大統領。世界の精神学者が深い関心をもつその特異な気質とは>

トランプ大統領の一つの特徴として、公の場で事実に反することや事実の誇張を平然と言ってのけることがある。その回数は就任以来1万回を上回っているが、トランプ氏はなぜそれができるのだろうか。

就任から1万回以上の「ウソ」

ワシントン・ポストの集計によると、トランプ氏が2017年1月に大統領に就任してからの発言のうち、事実に反する発言や誤解を招く主張は、今年4月26日に1万回を上回った。

<参考記事>トランプ大統領の大相撲観戦に前代未聞の備え

例えば、トランプ氏は「アメリカの貿易赤字は約8000億ドルにのぼる」と何度も繰り返しており、これに基づいて中国だけでなく日本を含む各国に関税引き上げを示唆しながら貿易ルールの改定を求めてきた。

しかし、アメリカ商務省の統計によると、財の貿易に関する2017年度のアメリカの貿易赤字は約8100億ドルだったが、一方でサービス貿易の収支でアメリカは黒字で、差し引きした合計の貿易赤字は5660億ドルだった。しかも、トランプ氏が署名して発表された経済報告では、サービス輸出は今後とも成長し続ける見込みだ。

つまり、財に特化した貿易赤字を抜き出してくることは印象操作に他ならず、しかもそれが繰り返されてきたとなると広い意味で「ウソ」にあたる。これらの「ウソ」は増加傾向にあり、1日平均でみると就任1年目は5.9回だったが、2年目はこれが16.5回にはね上がった。

そのうち最も多いのは「メキシコ国境の壁は建設中」というもので、ワシントン・ポストによると160回以上にのぼる(実際にはコンクリート製の壁の建設に必要な予算が議会の反対で執行できないため、既存のフェンスを修理しているだけ)。こうしたトランプ氏の「ウソ」は、世界を振り回す原動力になっているとみてよい。

「トランプの心」へのアプローチ

善し悪しはともかく、シロをクロと言いくるめられなければ政治家は務まらないだろう。だとしても、トランプ氏のそれは、やや異様とさえ映る。

平気で「ウソ」を連発するトランプ氏に関して、アメリカでは心理学や精神分析学の観点からの研究が盛んになっている(彼らのほとんどはトランプ氏の人格攻撃のためではなく、その社会的影響を考えるヒントとして著したと断っている)。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

イスラエルがガザ空爆、26人死亡 その後停戦再開と

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story