コラム

アメリカ経済、2024年はどうなる? 安定成長の継続か、リスクの顕在化か

2024年01月10日(水)18時08分
FRBパウエル議長

2023年は、米国では高インフレが和らぐ一方で、2%以上の経済成長が実現したとみられる。FRBパウエル議長。REUTERS/Yuri Gripas

<2023年、米国経済は高インフレ緩和と2%以上の成長を達成。欧州と中国の低迷にも関わらず、米国の安定が世界経済を支えた。2024年は、労働市場と金融政策の動向が米国経済の行方を左右する......>

昨年2023年は、米国では高インフレが和らぐ一方で、2%以上の経済成長が実現したとみられる。ほぼゼロ成長で推移したドイツなど欧州・低インフレが懸念される中国経済が冴えず、これらが世界経済の足を引っ張ったが、米国経済の安定が世界経済の成長を支えた。

昨年の米国を中心とした株式市場を振り返ると、FRB(連邦準備理事会)の金融政策に対する思惑や一部の銀行破綻などのイベントで市場心理は揺れ動いたが、11月初旬から年末までの急反発を経て、S&P500指数は約24%の大幅高となった。株式市場は結局大幅に上昇した訳だが、先述したように米国経済の成長によって企業業績改善が途絶えなかったことが、株高を支えた。


米国経済の2024年展望:ソフトランディグが続く理由

2024年の米国経済はどうなるか。2023年半ばから、過熱気味だった労働市場の需給バランスの改善伴いながら、経済は安定成長が続いている。23年までの利上げの引締め効果がタイムラグを伴って強まり、経済が急失速していわゆる景気後退に至るリスクは残っている。金融市場の中では、こうした見方は根強い。

ただ、昨年同様に、2024年も米国経済の減速は限定的にとどまり、ソフトランディングが続く可能性は相応に高いとみられる。そう考える理由を、以下で挙げる。

一つには、金融引締めによる景気押し下げ効果は既にピークを過ぎつつある、とみられる点である。2022年から1年半あまりの大幅な利上げが続く中で、銀行の融資姿勢(貸出態度)は厳しくなり、信用仲介を通じた景気下押し圧力が強まった。ただ、企業向けの銀行貸出態度の厳格化度合いは、政策金利が高止まる中で2023年10月ころから若干ながらも和らぐ兆しがある。

2022年以降のFRBによる利上げを受けて、過去の景気後退期と同様の銀行の融資基準の厳格化がみられたが、今回は銀行貸出の減少は極めて軽微にとどまりそうである。この点は、銀行の信用仲介の経路を通じた引締め効果が、2024年に強まらない可能性を示している。

もう一つは、労働市場の調整が限定的にとどまりそうな点である。労働市場での緩やかな減速は続いているが、大幅な調整に至るには依然距離があるとみられる。既に製造業、小売、輸送、IT関連など景気動向に敏感な産業では、昨年半ばから雇用者数の伸びはかなり低くなっており、過去半年は医療教育、レジャー娯楽、政府の3部門の雇用拡大に依存している。

限られた産業だけの雇用増加は持続可能ではない、との見立てもあるだろう。ただ、医療教育などの産業では、雇用者数全体の約40%を占める。更に、これらの産業の求人数をみると、2021年のピークから減ってはいるのだが、コロナ禍直前(2020年1月)よりも依然として総じて多い。過去2年余りでコロナ禍からの正常化は続いているのだが、それでも人手が足りない状況にある。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。著書「日本の正しい未来」講談社α新書、など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国の再利用型無人宇宙船、軍事転用に警戒

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story