コラム

風化させてはいけない...障害者殺傷を描く映画『月』は多くの人に観られるべき

2023年10月13日(金)14時35分

映画はその国の世相や社会の成熟度を示す。大きな事件が起きたとき、これをフィクションとして映画にすることは、諸外国では普通の行為だ。

77人が殺害されたノルウェーの連続テロについては、7年後に2本の劇映画が公開された。ハリウッドに蔓延する性加害がテーマの『SHESAID/シー・セッド その名を暴け』も騒動時に企画は始まり、既に公開されている。でも日本では、実際の事件の映画化はハードルが高い。多くの人が事件について忘れかけないとなかなか映画が作れない。




その理由についてここに書く紙幅はないが、本作のウェブサイトで石井監督は、「撮らなければいけない映画だと覚悟を決めました。多くの人が目を背けようとする問題を扱っています」と述べている。

生きる価値がないと命を選別して殺した彼は、命は全て平等に価値があると怒る社会から、おまえは生きる価値がないと判断されて処刑される。せめてその矛盾に社会は気付くべきだ。

面会時間が過ぎて帰るとき、扉を開けながらふと振り返れば、さとくんは深々と頭を下げていた。

magmori231013_tsuki2.jpg『月』(10月13日公開)
監督/石井裕也
出演/宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみ、オダギリジョー

<本誌2023年9月19日・26日合併号掲載>

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米7月雇用7.3万人増、予想以上に伸び鈍化 過去2

ワールド

ロシア、北朝鮮にドローン技術移転 製造も支援=ウク

ビジネス

米6月建設支出、前月比0.4%減 一戸建て住宅への

ビジネス

米シェブロン、4─6月期利益が予想上回る 生産量増
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story