コラム

『突入せよ!「あさま山荘」事件』を見て激怒、若松孝二が作った加害側の物語『実録・連合赤軍』

2022年04月14日(木)11時00分
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<凄惨な事件が起きたとき、加害側の視点が置き去りにされることで被害者意識が疑似の主語となる。加害者のモンスター化が進む。「冷血で残虐」が既成事実になる。でもそれは違う>

連合赤軍によるあさま山荘事件が起きた1972年2月から50年が過ぎた。5月には、日本赤軍元最高幹部の重信房子が20年の刑を終えて出所する。いろんな意味で節目の年だ。山荘に警察が突入した2月28日、これを実況するテレビの総世帯視聴率は最高90%近くに達した。

でも本当の衝撃はその後だった。山荘に立て籠もる前、群馬県山中に築いたアジト(山岳ベース)で彼らは同志に対してリンチ殺人を行い、29人のメンバー中12人を殺害して地中に埋めていたことが発覚する。

僕はまだ子供だったけれど、あさま山荘事件に続いて山岳ベース事件が明らかになったとき、周囲に多少はあった「学生ガンバレ」的な温度が明らかに下がったことを覚えている。言葉にするなら、そこまでやるのかという衝撃と嫌悪。これ以降、日本の新左翼運動は大きく退潮する。

この事件をテーマにした映画は僕の知る限り3本だ。高橋伴明監督の『光の雨』は2001年。翌年に原田眞人監督による『突入せよ!「あさま山荘」事件』が公開され、今回取り上げる『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』を若松孝二が発表したのは08年だ。

この映画を撮るために若松は自宅を抵当に入れただけではなく、自身の別荘をあさま山荘のロケセットとして提供し、実際の山荘そのままに水浸しにして破壊した。

つまり徹底した低予算映画。リアルな緊張感を演出するために若松はキャストに山中合宿を命じ、マネジャーの帯同を禁止し、メークや衣装も自前で用意させた、などと言い伝えられている。まあそうした狙いもあったのかもしれないが、本当の理由は予算節減じゃないかな。

なぜこれほどに凄惨な事件が起きたのか。冷血で残虐な人たちがたまたま集まったのか。もちろん違う。むしろ高邁な理念を掲げた純粋な人たちだ。だからこそ暴走する。

人は集団化する生き物だ。特に集団が閉鎖的で不安や恐怖が高まったとき、個の感覚や理性は集団の論理に圧倒され、全体で同じように動く傾向が強くなる。つまり同調圧力だ。全体で同じ動きをするために号令を求め、強いリーダーに服従したいとの衝動が大きくなる。

こうして自分たちが造形したリーダーに誰も逆らえなくなり、集団は大きな過ちを犯す。連合赤軍だけではない。オウム真理教もホロコースト(ユダヤ人大虐殺)もスターリンの大粛清も文化大革命もロシアのプーチン政権も、そのメカニズムは閉ざされた集団の暴走だ。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story