「欠点がない」のが欠点 緒方明『いつか読書する日』は熟年男女の究極の物語

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<市役所に勤める50歳で妻帯者の高梨と、心に秘めた女性・美奈子。2人は高校の同級生でありながら目を合わせない。美奈子はなぜ今も独り身なのか。タイトルの意味は? 全て説明したくなる>
資料に改めて当たり、『いつか読書する日』の公開が2005年であることに驚いた。16年も過ぎたのか。
ただし、本作監督の緒方明との付き合いはもっと古い。初めて会ったのは、(この連載でも以前に取り上げた)1981年公開の『シャッフル』の現場だった。このときの緒方のポジションはチーフ助監督。どちらかといえば物静かな監督である石井岳龍の現場を、緒方はその外見同様にマッチョに仕切っていた。
その後に紆余曲折あって僕はテレビドキュメンタリーの現場に身を置いてディレクターとなり、緒方も助監督として何本かの作品に従事してから、多くのテレビドキュメンタリーを演出する。
ほぼ同じ時期に同じ業界にいたわけだけど、この頃に緒方との接点はほとんどない。なぜならゴールデン枠の番組も演出する緒方は王道だ。対してこっちは、深夜枠をメインのフィールドにする日陰の立場。1998年に僕は『A』を発表して、その2年後に緒方も『独立少年合唱団』で商業映画の監督としてデビューする。
ベルリン国際映画祭に招待されたこの映画がアルフレート・バウアー賞を受賞したことを、僕は新聞などで知った。テレビでも話題になっていた。『A』もこの2年前のベルリン映画祭に正式招待されていたけれど、ほとんど報道されなかった。羨ましい。どうせこっちは日陰さ。
その緒方の2作目である『いつか読書する日』は、市役所の福祉課に勤める50 歳の高梨が主人公だ。妻はいるが心に秘めた女性がいる。名前は美奈子。2人は街でよくすれ違う。でも言葉を交わさない。目も合わせない。互いに黙殺している。
......とここまでストーリーの概要を書きながら気が付いた。この映画は克明にストーリーを記述しないと、紹介したことにならないのだ。
そう書くと、当たり前じゃないかと思う人はいるだろうな。当たり前じゃないよ。細かなストーリーの紹介など不要な(ガラガラガッチャーンみたいな)映画はいくらでもある。でも『いつか読書する日』は違う。なぜ高梨と美奈子は、高校の同級生でありながら目も合わせないのか。高梨の末期癌の妻は何を思って日々を過ごすのか。美奈子はなぜ今も独り身なのか。そもそもタイトルの意味は何か。そしてラストに何が起きるのか。全て説明したくなる。
つまり(緒方とはテレビ時代からの付き合いである)青木研次の脚本の完成度が、とてつもなく高いのだ。良い脚本さえできたなら映画は80%できたようなものだ。これは映画業界でよく耳にする箴言(しんげん)だけど、『いつか読書する日』については、その完成された脚本に、徹底して抑制された緒方の演出が重なり、さらに岸部一徳と田中裕子の熱演も奇跡的に融合している。
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