コラム

森達也 私的映画論

1人の男と2人の女、突き放される3人の子供　本当の「鬼畜」は誰なのか

2020年11月02日（月）11時00分

松本清張が書いた原作は、検事から彼が聞いたという実話をベースにしている。鬼畜は誰なのか。おなかを痛めた3人の子供を置き去りにした菊代なのか。宗吉を責め立てて犯罪に追い込んだお梅なのか。泣きながらではあっても、実際に手をかけた宗吉なのか。

既に大女優として不動の地位にいた岩下志麻と小川真由美が、とんでもない悪女を演じる。それも女優が演じる（凛とした）悪女ではなく、首筋に汗の粒を浮かべ、貧困と疲弊を身にまといながら男を罵る悪女だ。そしてその2人に責められ続けて、おどおどと言い返せない緒方の演技も素晴らしい。

ラストの言葉は予期できなかった。初めて観たのは20代の頃だったから、今ほど涙もろくはなかったはずだけど、名画座の暗がりで一人、ぐすぐすと洟（はな）をすすっていたことは確かだと思う。

magmori201031_movie2.jpg『鬼畜』（1978年）
©1978 松竹株式会社
監督／野村芳太郎
出演／緒形拳、岩下志麻、小川真由美

＜本誌2020年10月13日号掲載＞

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プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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