コラム

同性婚訴訟と「生物学的な自然生殖可能性」

2022年02月23日(水)10時45分
同性婚訴訟

y-studio-iStock.

<結婚したら子供をつくれとか、子供をつくるなら結婚しろとか、そんなことを他人からとやかく言われる筋合いなど全くない>

「生物学的な自然生殖可能性」。この不気味な言葉をご存じだろうか。

現在、日本で同性婚の実現を求める訴訟が複数の裁判所で同時に行われている。昨年3月の札幌地裁で違憲の判断が示されたことも記憶に新しい。

そして、これらの裁判の被告である国側が、同性婚を認めない現状を肯定する文脈で今年2月に持ち出したのが、この「生物学的な自然生殖可能性」という言葉だった。

なぜ日本は男女のカップルにしか結婚を認めないのか。同性カップルに同じ権利を認めないのは憲法違反ではないか。こう問われた国側は当初、婚姻制度の目的が「自然生殖の保護」にあるからだと主張していた。

だが、原告側はこう問い返したという。異性カップルの結婚には子供を産み育てることなど要件にしていない、にもかかわらず婚姻制度からの同性カップル排除を正当化するなかで結婚と生殖の結び付きを持ち出すのは差別的ではないかと。

確かに、結婚した異性カップルの全てが子供をもうけるわけではない。そのつもりがない場合もあるし、そうしたくとも年齢やお金などさまざまな理由でできない場合もある。

それぞれの結婚には本当に多様な形と状況があり、それらの間に何の優劣もない。結婚=生殖というのは現実と矛盾した乱暴な思い込みだ。

こうして国側はもともとの「自然生殖の保護」では線を引けなくなり、論理的な窮地に追い込まれたように見える。

そこで断末魔の叫びのようにして、「生物学的な自然生殖可能性」のあるカップル、つまりとにかく男と女のカップルであるか否かで線を引くという話をひねり出したのではないか。実際の妊娠や出産については脇に置き、異性カップルでありさえすればよいというわけだ。

だが、「ある2人が異性の場合に限り結婚できる」とする理由を、「その2人が異性である」こと自体に求めるしかないのであれば、それがもはや何の説明にもなっていないことは明らかだ。

この論理破綻は原告側の寺原真希子弁護士や性的マイノリティーに関する情報発信を行う一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣氏らも厳しく指摘している。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高の流れ引き継ぐ

ビジネス

為替動向を24時間注視、必要なら「適切に対応」=神

ビジネス

小売業販売額3月は前年比1.2%増、2月からプラス

ビジネス

3月鉱工業生産速報は前月比+3.8%=経済産業省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story