コラム

新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?

2021年04月12日(月)11時45分

中国全体でこの貧困ライン以下の農村住民は2015年時点で5600万人いて、新疆にも261万人いたが、これをゼロにする目標が新疆の自治区政府から各県政府に下達された。貧困人口はとりわけ南疆の4地区、すなわちホータン、アクス、カシュガル、クズルスに住むウイグル族など少数民族の農牧民が多かった。

大消費地から遠く離れたこの地域では、従来通りの農業や牧畜業をやっていたのでは収入を増やせない。そこで、工場を誘致するなどの努力が行われたが、貧困脱出の有望な方途として注目されたのが新疆内の綿花畑での綿摘みである。

貧困ラインを超えるためには2015年時点では1人あたり年に2800元の収入が必要であったが(于、2015)、綿摘み作業を夫婦2人で2カ月やれば1万8000元ぐらいの収入になり、仮に子供が3人いても、これだけで貧困ラインを優に超えることができる。

2016年には新疆自治区政府から綿摘みに新疆内の農民や牧畜民を優先的に雇用するようにとの通達も出され、貧困人口を綿摘み作業に動員することで貧困撲滅につなげる政策が推進されるようになった(新疆ウイグル自治区政府、2016)。

その動員の様子がどんなであったかは、こちらのビデオが参考になる。

農民の貧困対策

このビデオは2018年9月に、ホータン地区の墨玉県からアクス地区アワティ県の綿花畑にウイグル族の農牧民1642人を送り出したことを伝えている。これによると、墨玉県政府は農民たちが後顧の憂いなく出稼ぎに行けるよう、出稼ぎ期間中に子供たちを預けるための託児所、老人を預ける施設、牛や羊を預ける施設を用意した。墨玉県とアワティ県は同じ南疆ではあるものの、タクラマカン砂漠を間に挟んで400kmも離れている。県政府で出稼ぎ農民たちを送迎する大型バスを何台も用意したようだ。

ただ、2020年の綿摘みシーズンには、アクス地区ではもっぱら地区内の農民たちで綿摘みを行うようになり、地区外からの出稼ぎには頼らなかったという(趙・潘、2020)。ということは、上のビデオに出てくるホータン地区からアクス地区への出稼ぎは2020年には実施されなかったことになる。

アクス地区で2020年に綿摘み作業をした人々がどれぐらい稼いだかというと、最も能率の高い人で1カ月当たり1万元、最も能率の低い人で1か月あたり2400元、平均は4800元程度だったという。綿摘みに従事する期間は2カ月半ぐらいなので、最も多い人は2万5000元、最も少ない人は6000元、平均で1万2000元とのことである(陳、2020)。ということは、夫婦二人で2カ月半働いて得る収入は最低で1万2000元であり、子供が二人いる場合、なんとかぎりぎりで貧困ラインを超えられる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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