コラム

日本の電子マネーが束になってもかなわない、中国スマホ・マネーの規模と利便性

2017年09月29日(金)08時10分

日本ではおサイフケータイに限らず、電子マネー全体が低迷している。コンビニではおサイフケータイはもちろん、いろいろな電子マネーが使えるにも関わらず、8~9割の人が現金で買い物している。なぜ中国はキャッシュレス化へ突き進み、日本では依然として現金が主流なのだろうか。

先だって日本の民放テレビがこの話題を取り上げたときに登場した識者は、中国にはニセ札があるからスマホ・マネーのほうが安全だと思われて普及したのだ、と説明した。それを受けてキャスターが、日本にはニセ札なんてないからスマホ・マネーが必要とされるかどうか疑問だ、とコメントした。

この説明は「結局のところ日本は中国より先進的なのさ」と思っている人、あるいはそう思いたがっている人にはウケがいい。つまり、中国でスマホ・マネーが急速に広まるのは現金文化が後進的だからだというのである。

現金では享受できないサービス

たしかにこの説明にも一理ある。これまでのべ1500日に及ぶ私の中国滞在のなかでたった一度だけだけれども、私もニセ札に遭遇したことがある。中国の商店はニセ札を警戒しており、客が百元札を出したときは必ずニセ札感知機能がついたお札カウンターに通す。ただ、ニセ札のリスクを避けるためにスマホ・マネーが広まっているのだとすれば、スマホ・マネーが普及するにつれて現金を受け取らなくなる店も出てくるはずだが、実際にはそんなことは起きていない。ニセ札の存在は現金からスマホ・マネーへ人々をプッシュする一因ではあるものの、弱いプッシュ要因にすぎない。

それよりももっと重要な要因は、スマホ・マネーを持っていないと享受できないサービスが多くなったことである。つまりスマホ・マネーへ人々を引き付ける強いプル要因があるのだ。

スマホ・マネーの最大の用途、それはネット・ショッピングの支払いである。日本ではクレジット・カードの情報を入力することでネット小売への支払いを行うが、中国では個人でクレジット・カードを持っている人が少ないので、それに代わる支払い手段としてアリババが支付宝を編み出した。アリババが支付宝のスマホ版も出したところ、SNS「微信(WeChat)」を運営していたテンセントがそれに対抗するスマホ・マネーとして微信支付を始めた。テンセントは微信のユーザーに「お年玉」を配るというキャンペーンによってスマホ・マネー口座の加入者を増やし、アリババも対抗したため、2015年の旧正月にはお年玉配布合戦となり、スマホ・マネーを持つ人が一気に増えた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISS、コアウィーブによる90億ドル規模の買収計

ワールド

アラスカLNG事業、年内に費用概算完了=米内務長官

ワールド

アングル:高市政権、日銀との「距離感」に変化も 政

ワールド

世界安全保障は戦後最も脆弱、戦わず新秩序に適応をと
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story