コラム

メイカーのメッカ、深セン

2017年03月22日(水)18時23分

では深セン市のメイカー振興策は成功するだろうか。

単なる夢想家やメイカーをベテラン・メイカーに育てようとしている現段階では成否を評価するには時期尚早である。ただ、これから5年もすればここから本格的製造業者として巣立つ企業が輩出するだろうと私は予測する。そう考えるのは、深センがすでに中国各地のみならず、海外からもメイカーたちを惹きつけているからである。必ずこのなかに一発当てる人が何人か出てくるだろう。電子工作をする者にとって華強北電気街は天国のようなところで、これからも世界のメイカーたちを引き寄せるに違いない。

最後に深センのメイカー振興の課題を二つ指摘したい。

第一に、華強北電気街で売られている電子部品の品質の悪さである。華強北は売られている部品の品質の点では秋葉原に及ばない。秋葉原ではおよそどの店で買っても品質が悪い部品をつかまされる心配はないが、華強北で売っている電子部品の品質にはかなりばらつきがある。私が買ったUSBメモリはパソコンのソケットにうまく入らなかったし、三股のUSBコードの一本は断線し、ゲリラ携帯電話は買って1年後には機能しなくなった。店や部品の目利きの援助なしにはメイカーたちも部品調達に苦労しそうである。

第二に、深セン市のメイカー振興はこれまでのところ電気電子産業に偏っていて、電子回路とソフトウエアとモーターを組み合わせて何かを作るというパターンのメイカーが多いが、深センとそれを取り巻く珠江デルタ地域の産業にはもっと様々な可能性が潜んでいるはずである。例えば、深センに隣接する東莞市には家具産業やアパレル産業の集積地があり、もっと北の佛山市には有力な窯業企業が集まっている。順徳や中山市は白物家電で有名だし、その隣の江門市には金属食器の産業集積がある。また、深セン市はアニメ産業も盛んである。メイカーたちが珠江デルタの多様な産業集積を活用し始めたら、もっとすごいものを生み出せるはずである。

世界から深センに集うメイカーたちが華強北電気街だけでなく、その奥に広がる膨大な産業集積と創造の火花を散らし合うようになったとき、深センはメイカーのメッカとして不動の地位を築くに違いない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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