コラム

不法投棄に落書き...凶悪事件の現場に見る「割れ窓理論」の重要性

2024年12月10日(火)16時25分

地下道も、地上のトンネルと同様に、両側から出入りでき(入りやすい場所)、周囲からの視線も届かないので(見えにくい場所)、犯罪が起きやすい場所だ。その点で、アルマトイ(カザフスタン)の地下道のように、商店が張り付いていれば(写真⑥、写真⑦)店舗からの視線が届くので「見えやすい場所」になる。

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写真⑥

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写真⑦

だが商店が撤退し、文字通り空洞化すると落書きされてしまう(写真⑧)。そして、それを放置していると、無関心のシグナルになる(心理的に見えにくい場所)。このように、アルマトイでも、割れ窓理論が確認できる。

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写真⑧

栃木や川崎の事件は、割れ窓理論が指摘する「環境の乱れが犯罪を誘発する」ということを如実に示している。こうした悲劇を繰り返さないためには、地域における秩序維持活動が不可欠だ。

具体的には、落書きの除去やゴミの回収といった小さな努力を積み重ねることが必要である。そうした行動は、犯罪者に対し、「この場所は管理されている」(心理的に見えやすい場所)というメッセージになり、犯罪の抑止につながることが期待できるのだ。

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プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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