コラム

無差別殺傷事件は6月に多発... 日本がいまだ「自爆テロ型犯罪」に対して脆弱な理由

2023年06月02日(金)18時50分
秋葉原無差別殺傷事件の現場

秋葉原無差別殺傷事件発生直後の現場(2008年6月8日) Issei Kato-REUTERS

<性格も境遇もバラバラな犯人の動機についてばかり考えるのではなく、「なぜここで」という視点から犯行機会を減らそうとすることが重要だ>

先月25日、長野県中野市で、男が女性2人をナイフで刺したうえ、通報を受けて駆けつけた警察官2人を猟銃で撃って殺害した。この手の犯罪は、逮捕されてもいいと思って犯行に及ぶ「自爆テロ型犯罪」であり、逮捕されたくないと思っている「通常型犯罪」とは区別して考えなければならない。

昨年の7月に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件や、今年の4月に岸田文雄首相に鉄パイプ爆弾が投げられた事件も「自爆テロ型犯罪」だ。

「自爆テロ型犯罪」は、なぜか6月に多発し、5月下旬から7月中旬までの期間で目立つ。

例えば、スクールバスを待っていた私立カリタス小学校の児童が刺殺された事件は5月28日、京都アニメーションが放火され社員36人が死亡した事件は7月18日、そして前述した安倍元首相銃撃事件は7月8日に発生し、以下に列挙した事件はすべて6月に起きている。

(1) 大阪教育大付属池田小事件
小学校に包丁を持った男が侵入して、1年生と2年生の児童や教師を次々と刺し、児童8人が死亡、教師2人を含む15人が重軽傷を負った。犯人は「死刑になりたかった」と供述した。

komiya230602_1.jpg

事件当時の大阪教育大付属池田小学校 筆者撮影

(2) 秋葉原無差別殺傷事件
東京の秋葉原駅近くで、歩行者天国にトラックが突っ込んで通行人をはね、運転していた男が買い物客をナイフで襲撃し、7人が死亡、10人が重軽傷を負った。犯人は「誰でもよかった」と供述した。

(3) マツダ工場殺傷事件
広島県のマツダ本社工場で、東正門から侵入した暴走車に出勤中の社員が次々とはねられ、1人が死亡、11人が重軽傷を負った。犯人は、知人に「オレは秋葉原を超えた」と事件後に話した。

(4) 大阪通り魔殺人事件
大阪の心斎橋の路上で、包丁を持った男が通行人を刺し、2人が死亡した。犯人は「死刑になりたかった」「誰でもよかった」と供述した。

(5) 富山交番襲撃事件
富山市の交番で勤務していた警察官が、おのとナイフを持った男に刺殺されて拳銃を奪われ、近くの小学校の正門付近にいた警備員が、奪われた拳銃で射殺された。犯人は「人を殺すことで社会とのつながりを断とうとした」と供述した。

komiya230602_2.jpg

富山交番襲撃事件の現場 筆者撮影

(6) 大阪交番襲撃事件
大阪府吹田市の交番で勤務していた警察官が、男に包丁で刺されて重傷を負い、実弾入りの拳銃を奪われた。犯人は「周りの人がひどくなったせいだ」と供述した。

(7) 新幹線車内殺傷事件
走行中の東海道新幹線の車内で、ナタを持った男が乗客を切りつけ、1人が死亡、2人が重傷を負った。犯人は「誰でもよかった」と供述した。

(8) 新幹線車内放火事件
走行中の東海道新幹線の車内で、乗客の男がライターでガソリンに火をつけて焼身自殺し、1人が煙による気道熱傷で窒息死、乗客26人と乗務員2人の計28人が重軽傷を負った。

こうした「自爆テロ型犯罪」の動機を解明するのは困難だ。少なくとも、犯罪心理の専門家でない捜査官、検察官、裁判官には動機の解明を期待できない。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第1半期は55%増益 投資

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story