コラム

犯行要因を空間に求める「犯罪機会論」が防犯対策の主流になるまで

2022年03月12日(土)11時25分

しかし、日本の被害者運動は、被害者の権利保護までしかたどり着けなかったようだ。

いずれにしても、海外では、直接的には犯罪原因論の後退によって、間接的には被害者学の台頭によって、犯行現場(場所・状況・環境)を研究する犯罪機会論が防犯対策を担うようになった。それは、「事後(刑罰)から事前(予防)へ」「人から場所へ」というパラダイム・シフト(発想の転換)だった。

もっとも、犯罪原因論も影響力を完全に失ったわけではなく、決定論的な色彩を薄め、確率論的な「発達的犯罪予防論」へと変容していった。それは、「原因としての決定因子から傾向としての危険因子へ」というパラダイム・シフトだった。

こう見てくると、日本では、依然として犯罪原因論が闊歩しているし、修復的司法も導入されていないのだから、ほとんどの人が犯罪機会論を知らなくても、無理からぬことかもしれない。だとしても、いつまでも防犯後進国であっていいはずはない。

次回は、犯罪機会論を構成する個別の理論について解説する。犯罪機会論が抽出した「犯罪者が選んでくる場所」の共通点を詳しく説明したい。

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プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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