コラム

岸田首相の長男にボーナスは支払われる

2023年05月30日(火)17時47分

G7広島サミットは成功だったが...... Jonathan ErnstーREUTERS

<岸田首相が長男の翔太郎政務秘書官を更迭した。週刊文春の「首相公邸での大ハシャギ」報道がとどめを刺した形だが、なぜ即時でなく6月1日の辞任なのか。法律に基づけば、6月1日辞任なら200〜300万円と推測されるボーナスは満額支払われる>

岸田文雄首相が長男・岸田翔太郎政務秘書官を6月1日付けで辞職させると表明した。5月25日発売の週刊文春が「首相公邸での大ハシャギ」と題して、昨年12月30日に行われた岸田家親族などによる「忘年会」の様子を報道。掲載された写真の中には、かつて組閣時に閣僚写真を撮影した往年の階段で親族の一人がアイス片手に寝そべる「不適切な絵面」の写真も含まれていた。流出経路は不明で、G7広島サミットの高揚に水を刺す「絶妙」なタイミングということも憶測を呼んでいる。

岸田首相は当初、忘年会の中心人物である翔太郎秘書官を厳重注意に留める姿勢を見せていた。しかし、「不適切」「公私混同」だとする批判が高まり、日本経済新聞・テレビ東京の5月世論調査(5/26〜5/28実施)では内閣支持率が5ポイント低下した(52%から47%)。G7広島サミットや株価上昇を受けて各社の世論調査数値が軒並み上昇していた中での突然の急降下だ。公邸忘年会事件が「支持率を下げた要因とみられる」と日経が報じたことの衝撃は大きく、岸田首相もついに事実上の更迭に踏み切らざるを得なくなった。

翔太郎秘書官は昨年10月の着任時に「公私混同」だという批判を浴びて以来、これまでにも「官邸情報の漏洩疑惑」や「首相欧米歴訪時の公用車土産購入」などで物議を醸してきた。2月にLGBT差別発言で荒井勝喜秘書官(経産省出身)が即座に更迭されたのに比べて、叱責や注意を受けるだけ。「世襲後継予定者に対するダブルスタンダード」と言われても、首相としては息子の成長に期待していたのだろう。しかし今回ばかりは「更迭」という厳しい処分を下さないと「身内に甘い縁故主義」批判を無視できないと判断した形だ。

イギリスでは昨年、コロナ禍のロックダウン中にダウニング街10番地の首相官邸で送別会・クリスマス会・誕生日会などの「パーティー」がたびたび開催されていたことが発覚し「パーティーゲート」として政治問題化。2022年5月の地方選挙で与党保守党が大敗する原因となり、ボリス・ジョンソン首相(当時)退陣の一因にもなった。

イギリスの事案では、パーティーに参加したジョンソン首相本人がロックダウン規則違反として罰金を科されている。また、議会での虚偽的説明が問題を大きくしたことや、保守党内での「ジョンソン下ろし」の党派的動きと連動した事情があり一概に比較はできないが、翔太郎秘書官の首相公邸忘年会事件も「政治的な適切性」を欠くものとして社会の批判を浴びたという点では同じであろう。政治的な適切性判断、すなわち「ポリティカル・コンプライアンス」の感覚は現代の政治家にとって欠くべからざる重要性を持つようになっている。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油

ビジネス

米FRBは年内1─2回の利下げ必要=SF連銀総裁

ワールド

トランプ氏、イランとの取引国に「2次関税」 大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story