コラム

秘蔵っ子辞任「縁故主義」のブーメランが菅政権に突き刺さる

2021年03月01日(月)20時40分

山田氏は第2次安倍政権で女性初の首相秘書官を務めた(2013年)Yoshikazu Tsuno/Pool-REUTERS

<7万円の高額接待を菅首相の長男が勤める東北新社側から受けていたことが明るみに出た山田内閣広報官が辞任した。反縁故主義・既得権益打破を掲げる菅首相の「秘蔵っ子」の落馬は、政権にこれ以上ないブーメランとして突き刺さる>

山田真貴子内閣広報官が辞職した。3月1日の朝、衆議院予算委員会で集中審議が行われる直前のタイミングだ。「体調不良」による入院で職務継続が難しいとして、退職願が閣議了承された。

先週2月24日には総務省接待事件の関係者11名に対する処分がなされたが、その際に山田内閣広報官も「給与の60%(70万5000円)を自主返納」するとしていた。既に総務省を退職済みであったので、懲戒処分ではなく、自主的な対応だった。

しかし、7万円を超える高額接待に対する批判は鳴り止まなかった。2月25日の予算委員会で、「菅首相の子息が同席したことは大きな事実ではない」などと言い切ったことも含めて、事案の解明に消極的な対応を示したことで、国民の理解が得られたとは言い難い状況が続いていた。

菅政権としては、女性初の内閣広報官として期待するところも大きかっただろうが、接待事件で全てが吹き飛んだ形だ。内閣広報官としても、忸怩たる思いであると同時に、「タダより高いものはない」という格言を噛み締めているに違いない。

菅首相が「飛ぶ鳥を落とす勢い」だった頃

問題となった「7万円を超える接待」は、2019年11月6日に行われた。参加したのは、東北新社本社の代表取締役社長と取締役、そして子会社である東北新社メディアサービスの代表取締役社長と取締役という東北新社側4人と、総務審議官であった山田氏。この子会社取締役が菅氏の長男だった。総務審議官は、総務省で事務次官に次ぐポストで、情報流通分野(旧郵政省分野)における事実上のトップ。会社で言えばナンバー2の専務取締役のような存在だ。

山田氏は、第2次安倍政権で女性初の首相秘書官を務めた後、これまた女性初の総務審議官に上り詰めていた。きめの細い政治家対応も評価され、内閣官房長官だった菅首相の秘蔵っ子として知られていた。

「次の元号は令和であります」という2019年4月1日の改元発表で全国津々浦々まで顔と名前が知れ渡り、一躍「ポスト安倍」の有力候補と見なされるようになった菅氏が、飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃である。東北新社側は、そうした文脈の中で、山田総務審議官を接待した。本社の社長以下、それはそれは「気を使う」大事な接待だったに違いない。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story