コラム

イギリスはアメリカの犬じゃない...ぎくしゃくする両国関係、イギリスが抱える「トラウマ」とは

2026年03月10日(火)14時00分

「スターマー氏はウィンストン・チャーチルではない」

トランプ氏はフリードリヒ・メルツ独首相との共同記者会見で「今向き合っているのは(第二次大戦をともに戦った)ウィンストン・チャーチルではない。フランスは素晴らしかった。他のみんなも素晴らしかったが、英国は違った。非常に悲しいことだ」とスターマー氏を皮肉った。

英野党や保守系メディアから第二次大戦以来の米国との「特別関係」のヒビを懸念する声が上がる中、スターマー氏は「トランプ大統領が英国の不参加に不満を抱いているのは承知している。だが何が英国の国益にかなうかを判断するのが私の責務」と自身の判断を正当化した。

米国の同盟国は英国に限らず世界の超大国との「特別関係」が続くことを願望している。しかし米英「特別関係」も決して不動ではない。英・仏・イスラエルがエジプトに軍事侵攻したスエズ動乱で米国と利害が対立した英国は以後、米英「特別関係」を外交政策の根幹に据えた。

ベトナム戦争やソ連のアフガニスタン侵攻でも米英に不協和音

しかしベトナム戦争への派兵を拒んだハロルド・ウィルソン英首相と、リンドン・ジョンソン米大統領の関係は現在のスターマー氏とトランプ氏以上に悪化した。ソ連のアフガニスタン侵攻でも英国は米国によるモスクワ五輪ボイコットの呼びかけには応じなかった。

労働党内では「スターマー下ろし」のマグマが活発化する。政党支持率で新興右派ポピュリスト政党「リフォームUK(改革英国)」が30%前後で首位を独走。5月の統一地方選で労働党の敗色は濃厚で、スターマー氏は反ブレア派(左派)の顔色をうかがわざるを得ない状況だ。

英紙ガーディアンのサイモン・ジェンキンス氏は6日付で「スターマー氏の対応は正しかった。トランプ氏は米国が差し迫った攻撃の危険にさらされていると嘘をつき、戦争に踏み切る明確な理由を示さなかった。不確実な時代だからこそ英国は信念を貫かなければならない」という。

トランプ氏のイラン戦争は大きなギャンブルだ。空爆だけですべてが片付くほど戦争は甘くない。すでに原油価格は1バレル=100ドルを突破した。インフレが再燃し、主要国の中央銀行が利上げに転換せざるを得ない状況に陥れば、世界的景気後退のシナリオが現実味を増す。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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