コラム

ドイツが「脱原発」を延期...ドイツにも解けない「脱原発・脱石炭・脱ロシア」の難題

2022年10月18日(火)19時08分

独誌シュピーゲルのサイト「リアルタイム:欧州へのガス供給」によると、欧州向けロシア産天然ガスは10月16日の時点で2016~20年平均の5089GWhから795GWhへと84%超も激減した。ロシア産の代替となるLNGは1925GW時から4015GWh、ノルウェー産は3948GWhから4023GWh(同月13日)、アルジェリア産は942GWhから1049GWhに増えたに過ぎない。

合計すると2022GWhの穴が開いている。ドイツのエネルギーミックスに占める天然ガスの割合は約27%。ロシア産の「ガス欠分」を備蓄の取り崩し、原発、再生可能エネルギーへの転換、省エネルギーの組み合わせで埋めなければならない。

「2025年春までに天然ガスのロシア依存から脱却できる」

ドイツは今年前半、通常より多い天然ガスをロシアから輸入して備蓄を急いだ。産業界がガス使用量を削減するなど節約に努めれば、この冬、一般家庭や病院が配給制に追い込まれる最悪の事態は回避できる。独RWEは「2025年春までにロシア依存から脱却できる」と見込むが、来年、24年の冬までウクライナ戦争が続けば状況はさらに悪化する。

今年5月、輸入天然ガスの価格は前年同期比で236%も高くなった。ドイツ経済・気候保護省は国内の天然ガス貯蔵施設の最低貯蔵率を今年9月75%、10月85%、11月95%に設定した。石炭火力発電所や褐炭火力発電所による発電量を大きく増やしている。さらにエネルギー効率化や省エネも徹底する方針だ。

ドイツ機械工業連盟はエネルギー供給とサプライチェーン逼迫の影響について641社を対象に緊急アンケートを実施したところ、44%が「天然ガスの供給が制限されたことで状況が悪化した」と答えた。向こう3カ月の天然ガス供給の見通しについて61%が「状況はさらに悪化する」と予想。電力供給についても49%が「悪化した」と回答した。

9月末、キール世界経済研究所(ifW)やハレ経済研究所(IWH)などドイツの5主要経済研究所は秋季合同経済予測で今年の国内総生産(GDP)成長率を春から1.3ポイント下方修正し1.4%に、来年はマイナス0.4%と3.5ポイントも引き下げた。個人消費はドイツ経済の半分超を占めるため、インフレとエネルギー価格高騰による購買力低下は経済に悪影響を及ぼす。

脱原発・脱石炭・脱ロシア産天然ガスという連立方程式

インフレ予測は今年8.4%、来年は8.8%だ。ドイツ経済は下降スパイラルに入りつつある。EU経済のエンジン、ドイツが失速すれば「欧州の没落」は間違いなく加速する。一時しのぎで石炭火力発電に頼る動きがドイツでも出てきている。しかし、原油・天然ガス価格が高止まりすれば、再生可能エネルギーに投資するインセンティブにもなる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story