コラム

いまだ不人気のチャールズ国王だが、地球規模の気候変動対策「推進役」には適任だ

2022年10月15日(土)18時01分
チャールズ英国王

トラス英首相にCOP27出席を止められたチャールズ英国王(筆者撮影)

<英経済に大混乱を招いたトラス首相はチャールズ国王のCOP27出席に反対しているが、国王は地球憲章の提唱など、環境問題については積極的に発言している>

[ロンドン発]財源なしの大型減税策で市場を大混乱させ、早くも与党・保守党内から退陣論が噴き出しているリズ・トラス英首相が10月12日、週に1度の国王謁見のためバッキンガム宮殿を訪れた。トラス氏が「国王陛下、またお会いできるのをうれしく、光栄に思います」と膝を軽く折って片足を後ろに引くカーツィー(君主に対するお辞儀)をした。

チャールズ国王は冗談とも本気ともつかぬ口ぶりで「戻ってきたんだね。やれやれ。とにかく...」と部屋に招き入れた。首相就任から40日もしないうちにトラス氏は崖っぷちに追い込まれている。目玉政策だった「富裕層への最高税率45%廃止」に続き、成長戦略の柱となる「法人税率の19%から25%への引き上げ白紙化」についても撤回を余儀なくされた。

221015kmr_ccp02.JPG

9月6日に首相官邸に入ったトラス首相だが(筆者撮影)

通貨安、債券安、株安のトリプル安の引き金となったミニ予算が保守党内の造反で議会承認されない可能性が膨らんでいる。クワジ・クワーテング財務相は「われわれの立場は変わらない」と強がって見せたが、国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事からミニ予算の撤回を諭され、就任39日目を迎えたトラス氏から引導を渡された。

221015kmr_ccp03.JPG

トラス首相に首を切られたクワーテング財務相(筆者撮影)

財務相にボリス・ジョンソン前首相と対立したジェレミー・ハント元外相・保健相が任命されたが、週明けの市場が落ち着くかどうか。財政も赤字、経常収支も赤字の国が中央銀行との政策協調(資産購入)なしに財政を拡張すればどうなるか、それすらトラス氏は理解できなかった。経済オンチの彼女にお引き取り願ってハント氏を暫定首相に担ぐ動きもある。

王室廃止論者だったトラス氏の助言

エリザベス女王の死去2日前の9月6日に女王から首相に任命されたトラス氏は英名門オックスフォード大学の自由民主党支部で活動していた頃、王室制度を廃止して共和制への移行を唱えた。「パディ・アシュダウン(当時の自由民主党党首)が英国の万民が何者(国家元首)かになる権利を持つべきだと言ったのは正しい」。19歳のトラス氏はこう力説した。

まだ、ふっくらとしていたトラス氏は「英国ではたった一つの家族だけが国家元首になることができる。自由民主党は万人が等しく機会に恵まれ、憲法に関わる主要事項を国民投票にかけることを支持している。私たちが中流市民に王室制度に対する意見を聞いたところ、何と答えたか想像できる? 『もうたくさんだ、廃止しろ』ってね」と聴衆に訴えた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story