コラム

アストラゼネカ製ワクチンへの疑いは晴れた EUはワクチン戦争よりイギリスと協力せよ

2021年03月23日(火)06時10分

AZワクチン接種後に報告された血栓症例は一般集団で予想された数よりも少なかったという。

「巨大なぬいぐるみ」の中で勘違いしてしまったEU

欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、EU域内で接種されたのはファイザー3751万2973回、アストラゼネカ732万7363回、モデルナ215万7095回(17日時点)。100万回接種当たりの肺血栓塞栓症の発生率はファイザー2.6例、アストラゼネカ1.8例、モデルナ0.9例。

深部静脈血栓症(DVT)はファイザー0.9例、アストラゼネカ0.4例、モデルナ0.5例。脳静脈血栓症(CVT)はファイザー0.1例、アストラゼネカ0.4例と3社のワクチンの間で大きな違いはみられなかった。EUのアストラゼネカ攻撃が、いかに理不尽かがお分かり頂けるだろう。

周りを海に囲まれた通商国家イギリスは常に「ウィンウィン」でモノを考えるのに対し、大陸国家の寄せ集めに過ぎないEUは典型的な「ゼロサム」思考。EUはこれまで叩いてきたAZワクチンのイギリスへの輸出を差し止める愚挙に再び出ようとしている。

EU加盟国の一連の行動はワクチンへの不信感も増幅させた。これをきれいに拭い去るのは大変な労力だ。

こんな恥知らずなことを世間体も考えずにいとも簡単にできてしまうのは、自分の身の丈に合わないEUという「巨大なぬいぐるみ」を身に着けたことで、加盟各国の政治指導者やEU官僚が「絶対正義」を手に入れたと勘違いしてしまったからに他ならない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国新規銀行融資、5月予想下回る 貿易摩擦が重荷

ワールド

石破首相、参院選公約に国民1人2万円給付を表明 子

ワールド

トランプ氏、イランに核合意促す 「虐殺終わらせる時

ワールド

印機墜落、死者260人超 政府が同型機の安全点検検
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    【動画あり】242人を乗せたエア・インディア機が離陸…
  • 7
    【クイズ】今日は満月...6月の満月が「ストロベリー…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    ゴミ、糞便、病原菌、死体、犯罪組織...米政権の「密…
  • 10
    【クイズ】2010~20年にかけて、世界で1番「信者が増…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story