コラム

スウェーデンは本当に「集団免疫」を獲得したのか 第二波におびえる日本の対策はそれより緩い

2020年08月11日(火)11時17分

マスク着用率は世論調査会社ユーガブによると、日本86%に対してスウェーデン6%と大きな開きがある。テグネル氏は「朝起きて体調が優れない時は家にいるのが一番。それがわが国の対策だ」と説明する。ちなみに北欧諸国のマスク着用率はみなスウェーデン並みに低い。

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YouGovより

カギを握る高齢者介護施設対策

スウェーデンの死者は5763人。内訳は90歳以上1501人、80~89歳2392人、70~79歳1241人と70歳以上が死者全体の89%を占める。欧州で被害が拡大した理由の一つに介護施設での対策が不十分だったことが明らかになっている。

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの調査ではコロナ死者全体に占める介護施設入所者の死者はベルギー64%、フランス49%、スウェーデン47%、英イングランド・ウェールズ41%。介護施設での死者で見た場合、スペイン68%、ノルウェー59%、フィンランド45%となる。

日本では共同通信が5月に実施した自治体調査で介護施設での死者はコロナ死者全体の約14%だったことが分かっている。介護施設でのクラスター発生を防げていたら欧州の死者数は大幅に抑えられていた可能性が高く、欧州各国とも介護施設対策を強化している。

テグネル氏は5月、「わが国では人口の25%が免疫を獲得したと推定される。流行はこれからも広がり、集団免疫レベルに近づく。社会を開いていても感染者は減少する」と強調した。しかし第一波が収束したのは集団免疫を獲得したからという見方には強い疑問が唱えられている。

経済面でも集団免疫戦略の効果は疑わしい。欧州委員会の経済見通しによると、今年、スウェーデンの成長率は▲(マイナス)5.3%で、他の北欧諸国フィンランド▲6.3%、デンマーク▲5.2%と大きく変わらない。

緩いスウェーデン方式は、コロナの脅威は実際以上に誇張されていると主張する世界中の極右ポピュリストに称賛されている。

しかし同国の対策が実は日本より厳格で、テグネル氏自らが検査・接触追跡・クラスター対策の強化を掲げていることからみても分かるように第二波の発生を警戒しているのは火を見るより明らかだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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