コラム

「女性議員に辞任を迫るヘイトはファシズムに道を開く」ヒラリー・クリントン氏が警告

2019年11月15日(金)12時05分

ロンドンで、新著『The Book of Gutsy Women(勇敢な女たちの書)』のPRイベントに参加したヒラリーと、娘で共著者のチェルシー(11月10日) Simon Dawson-REUTERS

[ロンドン発]「ヘイトはファシズムや権威主義への道」――2016年米大統領選の民主党指名候補ヒラリー・クリントン氏が13日、英大学キングス・カレッジ・ロンドンで講演し、英国の欧州連合(EU)離脱を巡って国論が二分し、女性議員に辞任を迫るヘイト(嫌悪)が広がる現状について警鐘を鳴らした。

「オーダー」の下院議長も引退

クリントン氏は「多くの下院議員、特に女性が立候補しないと聞いた。彼ら、彼女らが直面する脅威、それは個人に対する脅威にとどまらず、 民主主義への脅威だ」と指摘し、こう続けた。

「ヘイトを撒き散らす人は、理由はどうであれ、左にも右にもいる。民主的な選挙に立候補することを脅かされている場合、それは権威主義への道、ファシズムへの道につながる」

英国では12月12日に総選挙の投票が行われる。与党・保守党31人、最大野党・労働党19人、中道・自由民主党3人、保守党追放組を含む無所属11人の計64人が立候補を辞退した。

「静粛に(Order)」の掛け声で世界的に有名になった残留派ジョン・バーコウ前下院議長もこの中に含まれる。うち女性は19人だ。

EU離脱で国が分断し、ヘイトが噴き出す

強硬離脱(ハードブレグジット)に突き進む保守党が総選挙に向け党内の残留派、穏健離脱(ソフトブレグジット)派を一掃。経済統合よりEUからの主権奪還を最優先にする「離脱」党に変身し、「小さな政府」「ビジネス優先」「自由貿易」の伝統は雲散霧消した。

EUから離脱さえすれば、すべての問題が解決すると、グローバル化とデジタル化が生み出した敗者のルサンチマンを主要メディアやソーシャルメディアで煽りまくり、嫌悪、憎悪、怒りの感情をEUや移民、離脱を阻む残留派や穏健派、議会に向けさせる。

人間の感情の中で怒りが一番、投票行動に結びつきやすいからだ。

一方、労働党では筋金入りの社会主義者ジェレミー・コービン党首がパレスチナに肩入れして党内に広がる反ユダヤ主義に目をつぶる。"隠れ離脱派"のコービン党首はEU離脱か、残留かはっきりしない態度を取り続けており、党内は液状化している。

総選挙後の野党連立政権をにらんでスコットランド民族党(SNP)が主張するスコットランド独立住民投票の再実施について言を左右にし、有権者を混乱させている。

反ユダヤ主義の歴史や背景は非常に複雑で根深く、現在でも反イスラエル感情、中東政策、貧富の格差とユダヤ金融資本を結びつけたネット上のヘイトが広がっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「MSNBC」が「MS NOW」へ、コムキャスト

ビジネス

米8月住宅建設業者指数32に低下、22年12月以来

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

イスラエル、豪外交官のビザ取り消し パレスチナ国家
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story