コラム

中国が米国と欧州の間に打ち込んだ5Gという楔 「一帯一路」でも攻勢

2019年03月27日(水)20時01分

ファーウェイの5G技術を展示するブース(2018年9月28日、中国国際情報通信展覧会) REUTERS

[ロンドン発]欧州連合(EU)のジャン=クロード・ユンケル欧州委員長は、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の次世代通信規格5G参入を巡り、加盟各国のリスク評価に基づき、EUレベルの認可条件や対抗措置を決める勧告を公表した。

米国が求める即時締め出しではなく、EUは加盟各国でリスクを評価してから協調的に対応するソフトアプローチを選択した。中国、欧州と対立する米国のドナルド・トランプ大統領に対し、中国の習近平国家主席はイタリアやフランスを歴訪し、友好を演出した。

アングロサクソン系スパイ同盟ファイブアイズの米国、オーストラリア、ニュージーランドに加えて、日本がファーウェイ全面排除を決定。これに対し、EU離脱で海外直接投資が冷え込み、中国マネー頼みの英国は言葉を濁し、ファーウェイ参入に道を残している。

電子スパイを担当する英政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官が「中国の技術がもたらすチャンスと脅威を理解すべきだ」と発言し、英秘密情報部(MI6)のアレックス・ヤンガー長官は「国家の重要インフラのサプライヤーは最大限に多様化すべきだ」と述べた。

イギリスはアメリカに逆らうか

英国が最終的にファーウェイの一部参入を認めた場合、ファイブアイズから干される恐れすらある。米国とは一定の距離を取り始めたドイツやフランスは全面排除より、認可条件などセキュリティーに関するルールを強化する方が現実的との立場を表明してきた。

欧州議会は先に「中国企業の開発した5G器機 がバックドアを埋め込み、企業や中国当局がEU域内の私的かつ個人的なデータや通信内容に不正にアクセスできる恐れがある」ことに重大な関心を表明していた。

それを受けた欧州委の勧告は以下の内容だ。

(1)加盟各国は6月末までに5Gネットワーク・インフラのリスク評価を完了する。評価は技術的なリスクや第三国を含むサプライヤーやオペレーターの行動に関するリスクも対象とする。加盟各国は企業が規格や法的枠組みを順守しない場合、国家安全保障を理由に市場から排除する権利を有する。

(2)加盟各国は10月1日までに情報を交換し、欧州委やEUのサイバーセキュリティー庁の協力を得て協調的なリスク評価を完了。これに基づき、認可条件や試験、安全ではないとみなされた製品やサプライヤーの特定など加盟国が発動できる措置についてEUレベルの合意を目指す。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story