コラム

英国民はそろそろEU離脱が「糞を磨く」のと同じことに気づくべきだ 強硬離脱派の大物閣僚2人辞任

2018年07月10日(火)18時00分

7月9日に辞任したボリス・ジョンソン英外相 Simon Dawson-REUTERS

[ロンドン発]サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会でイングランド代表が1990年イタリア大会以来のベスト4進出を果たし、66年イングランド大会以来という2度目の優勝を目指して突き進む中、英国ではデービッド・デービス欧州連合(EU)離脱担当相に続いてボリス・ジョンソン外相が辞任した。

2人はいずれもEUの単一市場、関税同盟、欧州司法裁判所の管轄権からの完全離脱を唱える強硬離脱(ハード・ブレグジット)派の代表格。保守党議員委員会(1922年委員会)に48人の書簡が寄せられると、保守党党首であるテリーザ・メイ首相の不信任投票が行われるが、今のところメイ首相は強硬離脱派の反乱を押さえ込んだかたちだ。

よもやの過半数割れを喫した昨年の総選挙から、すでに6人の閣僚が辞任。ジョン・メージャー首相(在職1990~97年)以降、6人もの閣僚が辞任したのはメイ首相とゴードン・ブラウン首相だけ。ブラウン首相の時は1000日以上を要したが、メイ首相の場合、総選挙から500日も経っていない。

メイ首相はEU離脱という世紀の難事業を抱えながら「風前の灯火」の政権運営が続く。

メイ首相の穏健離脱方針に反発

英国の有権者が52%対48%でEU離脱を選択した国民投票から2年余。EUからの離脱が来年3月末に迫る中、メイ首相は首相別邸チェッカーズで10時間超の集中閣議を開き、EU離脱後も「財(モノ)」の通商に関してはこれまで通りEUの共通ルールに従う穏健離脱(ソフト・ブレグジット)の方針を確認した。これが大物閣僚の辞任の引き金となった。

長期的に投資計画を立てる自動車メーカーを除き、民間企業は「合意なき離脱」という最悪シナリオに従い、来年3月末までにそれぞれのブレグジットを済ませる。日産、トヨタ、ホンダといった自動車メーカーにまで生産拠点を縮小されると英国経済は回復不能な打撃を受ける。モノに関してEUの単一市場にとどまるというのは不可避の選択だった。

集中閣議では、アイルランドと英・北アイルランドの間に「目に見える国境」を復活させないため、英国側で特別な関税措置を施すことも確認された。

首相になるという欲望に取り憑かれたジョンソン氏は集中閣議後、「メイ首相の離脱計画を支持するのは『糞(くそ)を磨く(polish a turd、無意味なことのたとえ)』ようなものだ」と吐き捨てた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 7
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 8
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story