加谷珪一が考える『ポスト新産業革命』

「人口減少」×「人工知能」が変える日本──新時代の見取り図「金融機関編」

2018年03月08日(木)20時30分

ビジネスのAI化は3段階のステップで進む

第1段階は単純業務の自動化である。現在、メガバンクが進めているのは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれる手法である。

これは、業務をあらためてシステム化するのではなく、既存のシステム上の操作をソフトに覚えさせ、一連の業務を自動化していく手法である。簡単に言ってしまうと、エクセルのマクロ機能に近いものだが、これを大規模に実行する様子をイメージすればよい。定型業務を自動化するだけでも、実はかなりの人員削減が可能となる。

第2段階は、いよいよ本格的なAI活用のフェーズである。従来の融資業務は、取引先の信用情報などを行員が分析し、都度、融資の可否を判断していた。スコアリングなど、審査業務をシステム化しようという動きはあったが、属人的な日本の商慣行が邪魔をしてなかなかうまくいかなかった。

AIをフル活用すれば、こうした作業の多くを実用的なレベルで自動化できる。この段階まで来ると、商業銀行における業務の大半を機械が実施することも不可能ではなくなってくる。

だがここで問題となるのがAIの分析に必要なビッグデータである。いくらAIを活用するといっても、従来と同じ取引先データを人海戦術を使って集めていたのでは、業務の自動化は不可能である。つまり、新時代の金融ビジネスにおいては、他業種からの参入余地が出てくるのだ。

純粋な商業銀行という形態はいずれ消滅する?

第3段階は、他業種からの参入による金融サービスの多様化である。融資業務がAIで実現可能ということは、AIの技術さえあれば、金融以外の業種であっても融資ビジネスに参入できることを意味している。しかも、実業をベースにした企業の場合、AI化に不可欠となる精緻なビッグデータをすでに持っているというケースも多い。

リクルートは2017年、旅館を対象とした融資ビジネスに参入したが、同社は「じゃらん」という宿泊施設の予約サイトを運営しており、各旅館の予約状況を把握している。ECサイト各社が、自社のデータを使った融資ビジネスに参入するのは時間の問題といわれている。ECサイトは商品やお金の流れに関する詳細なデータを持っているので、AIを活用することで、銀行より精度の高い融資を実現することも不可能ではない。

そうなってくると銀行は融資ビジネスにおいて必ずしも有利な立場とは言えなくなる。これに加えて電子マネーの普及によって決済業務のオープン化も進んでいる。メガバンクは、伝統的な商業銀行業務から徐々に撤退し、投資銀行業務やプライベートバンク業務など、より付加価値の高いビジネスへとシフトしていくだろう。

これらの分野は、仮にAI化が進んでもフェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションがモノを言う世界だが、一連の業務に従事するためには高いスキルが求められる。高付加価値業務を担当する行員として銀行に残れるのは、ごく一部にとどまるだろう。


『ポスト新産業革命 「人口減少」×「AI」が変える経済と仕事の教科書』
 加谷珪一 著
 CCCメディアハウス

筆者の連載コラムはこちらから

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中、貿易問題巡る初日協議終了 トランプ氏「良い協

ワールド

インドとパキスタン、互いに停戦違反と非難 係争地で

ワールド

アングル:欧州移住に関心強める米国人、「トランプ氏

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story