加谷珪一が考える『ポスト新産業革命』

「人口減少」×「人工知能」が変える日本──新時代の見取り図「小売編」

2018年03月12日(月)18時15分

「待ち」のビジネスなのか「攻め」のビジネスなのか

コンビニをはじめとする一般的な小売店は、不特定多数の顧客を対象としている。誰が来るのか分からない状態で商品を並べているという点において、受動的なビジネスといえる。もちろん出店するエリアによって、平均所得や住民の職業など顧客の属性は変わるので、それに合わせて商品構成を変えるのは当然のことである。だが、具体的に「誰」が来店するのかまでは分かっていない。

だがアマゾンの無人コンビニは、基本的にアマゾンの会員を対象としたサービスである。どこに住んでいて、日頃どのような商品をどんな頻度で買っているのかアマゾン側は理解している。
 アマゾンのようなECサイトは、システムを活用しておすすめ商品を顧客に提案するという機能を備えているが、一連の機能によってECサイトの販売金額は飛躍的に伸びた。アマゾンはおそらく無人コンビニでも同じような取り組みを実施するものと思われる。

AIを使って利用者の好みを判定することで適切な来店を促したり、利用者が欲しい商品をあらかじめ取り揃えることで客単価や販売数量を増やしていくことになるだろう。

AI時代にはすべての小売店が「ネット化」を迫られる

アマゾンが無人コンビニの本格展開に成功した場合、小売店の概念は一変することになる。つまり「待ち」のビジネスから、ネット通販と同様「攻め」のビジネスに転換することが可能になるのだ。つまりAI時代における小売店というのは、店舗があろうがなかろうがネット・ビジネス化が進むということを意味している。

日本勢の一部も、同じことを考えている。コンビニ2位のファミリーマートは2017年にLINEと提携したが、これはリアル店舗のネット・ビジネス化に向けた第一歩と考えてよいだろう。ファミリーマートは量販店のドン・キホーテとも資本提携(厳密には持ち株会社の資本提携)したが、ドンキもAIを活用した能動型店舗の開発を表明している。

すでにコンビニは全国各地に店舗を展開しており、有力な商圏はほぼ開拓し尽くしたともいわれる。しかも、今後は急激な人口減少と都市部への人口シフトによって多くの商圏が消滅する。数少ない商圏の中で、他社との競争に勝ち抜くためには、AIを使った能動型小売店へのシフトが必須となる。

冒頭でも説明したように、同じ商品を売っているように見えても、従来型小売店とAI型小売店の考え方は根本的に違っている。この価値観の転換についていけなかった小売店は厳しい展開を余儀なくされるだろう。

【第1回】新時代の見取り図「金融機関編」


『ポスト新産業革命 「人口減少」×「AI」が変える経済と仕事の教科書』
 加谷珪一 著
 CCCメディアハウス

筆者の連載コラムはこちらから

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意

ワールド

グリーンランドと自由連合協定、米政権が検討

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story